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第37回
算定基礎届とは?
中小企業時間外労働の影響と注意点
申請前チェックリスト「16項目」を無料公開

ここがポイント!

  • 70歳・75歳になる従業員がいる場合の注意点
  • 60時間を超える時間外労働の割増率改定の影響がある
  • 訂正届を提出しないための「16項目のチェックリスト」を公開

社会保険労務士法人アールワンの西嶋です。

毎年、6月を迎えると算定基礎届の準備を始める時期となります。
年に1回の手続きとなるため、注意すべき点や、あらかじめ把握しておかないといけない事の整理に時間がかかってしまうことがあるかと思います。

今回は算定基礎届の注意点として具体例を出し、6つのイレギュラーケースについてお伝えし、

さらに、中小企業時間外労働の影響は受けるのかも併せてお伝えしていきます。

1. 算定基礎届について

社会保険に加入されている方は、毎月の給与から社会保険(健康保険、介護保険、厚生年金)の保険料が標準報酬月額を基に控除されています。

算定基礎届は4月・5月・6月の給与の1ヶ月平均額から新たな標準報酬月額を決定する手続きで、社会保険に加入している方が実際に受ける給与(報酬)と現在の標準報酬月額が大きくかけ離れないよう、毎年1回(7月)に見直しを行うことを目的としています。

※ 算定基礎届の詳細は、第13回コラムをご確認ください。

2. 算定基礎届のイレギュラーケースと注意点

1.令和4年10月からの「短時間労働者 社会保険適用拡大」の対象会社の場合

短時間労働者の健康保険・厚生年金保険の適用がさらに拡大されたことにより、短時間労働者の算定基礎届には注意が必要です。
事前に短時間労働者の方を把握しておきましょう。

短時間労働者の算定基礎届:週20時間以上、月の賃金88,000円以上の方
4月・5月・6月のうち、支払基礎日数が11日以上の月の報酬が算定の対象とします。

【記載方法】
以下の場合、4月と6月が算定の対象となり、この2カ月の1ヶ月平均額で新たな標準報酬月額を決定します。

図1
短時間労働者の算定基礎届の記載例

2.給与対象期間の途中から入社した場合

給与の支払い対象期間の途中から入社した場合、入社月分の給与が日割りで計算され満額支給されない場合があります。
入社月の給与が1ヶ月分支給されなかった場合、支払基礎日数が17日以上あってもその月は算定対象月から除きます。

【記載方法】
例:4月14日入社の正社員 給与締日:月末 支給日:翌月15日
4月 支払基礎日数:なし  給与支給:なし
5月 支払基礎日数:17日 給与支給:165,000円(1ヶ月分支給されていないため、算定対象月から外す)
6月 支払基礎日数:31日 給与支給:300,000円(6月のみが算定対象月となる)

図2
給与対象期間の途中から入社した場合の算定基礎届の記載例

3.二以上勤務者のいる場合

主選択事業所、非選択事業所共に主選択事業所を管轄する年金事務所(健康保険組合)に申請を行います。

【記載方法】
備考欄の二以上勤務者の欄にチェックをつけて申請を行います。
非選択事業所の届出も主選択事業所を管轄する年金事務所(健康保険組合)に提出することになりますので注意しましょう。

■主選択事業所の届出

図3
二以上勤務者のいる場合の算定基礎届の記載例(主選択事業所の届出)

■非選択事業所の届出

図4
二以上勤務者のいる場合の算定基礎届の記載例(非選択事業所の届出)

※ 二以上勤務者の詳細は、第18回コラムをご確認ください。

4.4月・5月・6月にかけて給与改定があった方がいる場合

4月・5月・6月にかけて給与改定があった方がいる場合、7月・8月・9月の月額変更届に該当する場合があります。
月額変更届に該当した場合、算定基礎届よりも月額変更届が優先されます。
算定手続きを行う際、月額変更届に該当する方がいないか確認しておきましょう。

5.仕事場所が自宅⇒会社に変更となった場合の通勤費の取扱い

新型コロナウイルスの影響で在宅勤務・テレワークが増加しましたが、2023年5月8日から2類感染症から5類感染症に扱いが変わり、出社する頻度が増えているかと思います。
それに伴い、労働契約上の労務の提供場所が自宅⇒会社に変更となった場合、出社が通勤扱い(通勤手当)となり、その費用を報酬に算入する必要があります(労務の提供場所が自宅の場合、出張費扱いとなるため、報酬への算入は不要です)。

契約変更となった方がいないか、事前に確認をしておきましょう。

6.70歳・75歳になる従業員がいる場合

まず、ここで注意が必要なのは、自分の会社が健康保険組合に加入しているかというところです。

① 健康保険組合に加入している場合

70歳に到達:年金事務所へ被用者※1として算定基礎届の提出が必要/健康保険組合への算定基礎届の提出が必要
75歳に到達:年金事務所へ被用者として算定基礎届の提出が必要/健康保険組合への算定基礎届の提出は不要
健康保険の資格を喪失し、後期高齢者医療制度へ移行するため、資格喪失の届出が必要です。
※ 年齢ごとに発生する手続きを知りたい方は、第17回コラムをご確認ください。

※1 70歳の被用者(厚生年金)とは、以下全ての条件に該当する方が対象です。

  • 70歳以上の方
  • 厚生年金の適用事業所に就業していて、週の所定労働時間及び1ヶ月の所定労働日数が、通常の労働者の3/4以上の方、短時間労働者の加入適用の事業所に就業し、加入要件を満たす方
  • 過去に厚生年金の被保険者期間がある方

<注意点>
お使いの人事給与システムの確認をお願いします。
75歳に到達し、後期高齢者医療制度に移行された方がいる場合、被用者としての算定基礎届(厚生年金)が漏れてしまう場合があります。
理由は、お使いの人事給与システムによっては75歳未満で健康保険に加入済みの場合、算定手続きの対象者としてデータの出力を行ってくれますが、75歳以上で健康保険の資格を喪失すると、算定手続きの対象者としてデータの出力が行われない場合があるためです。
事前に75歳以上の対象となる方を把握しておきましょう。

② 健康保険組合に加入していない場合

70歳に到達:年金事務所へ被用者として算定基礎届の提出が必要
75歳に到達:年金事務所へ被用者として算定基礎届の提出が必要

【記載方法】
70歳の被用者算定基礎届は、基礎年金番号の記載と備考欄の70歳以上の被用者算定欄にチェックが必要です。

図5
70歳の被用者算定基礎届の記載例(健康保険組合に加入していない場合)

③ 4月・5月・6月に70歳を迎える従業員がいる場合

70歳以降に給与を支給した月の平均額で算定し、厚生年金の標準報酬月額相当額が決定されます。

【記載方法】
例:当月月末〆翌月25日払い 4月5日に70歳になった方
6月に支給された報酬のみで厚生年金の標準報酬月額が決定されますので、備考欄の算定基礎月の箇所に6月と記載します。
健康保険については、4月から6月に支給された平均額で算定が行われます。

図6
70歳の被用者算定基礎届の記載例(4月・5月・6月に70歳を迎える従業員がいる場合)

<豆知識>
なぜ70歳の被用者算定基礎届が必要なのか?

70歳の被用者の方は老齢基礎年金(国民年金)は全額支給されますが、老齢厚生年金(厚生年金)については、給与と老齢厚生年金の支給額が47万円を超えると超えた額の1/2の支給が支給停止となります。
この年金の支給額の確認・調整のために申請が必要となっています。

3. 60時間を超える時間外労働の割増率改定の影響について

2023年4月から中小企業の月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が25%⇒50%となりました。
今回の割増賃金率の改定は、少なからず算定基礎届と月額変更届に影響がありそうです。

算定基礎届

従来よりも標準報酬月額が高くなる可能性があります。
4月から6月に支給される給与で60時間を超える時間外労働が発生した場合、従来よりも時間外手当が増加します。
算定基礎届は4月から6月に支給された時間外手当を含んだ給与で新たな標準報酬月額を決定するため、標準報酬月額が高くなります。

月額変更届

4月から6月に昇給などがあり、固定的賃金(基本給、各種手当)に変動があった場合、月額変更届に該当する場合があります。
極端な話、固定的賃金の変動が1円だったとしても月額変更届の起算月となります(起算月は変動があった賃金が満額支給された月からとなります)。
そんな中、4月から6月に60時間を超える時間外労働が発生した場合、時間外手当を含んだ給与に該当するか確認を行いますので、2等級以上の差が生じ、月額変更届に該当する可能性が出てきます。

4. 算定基礎届の電子申請を行うようになって

算定基礎届を紙から電子申請で行うようになり、届出の手書きや専用用紙への印刷がなくなったので、業務負担を軽減することができましたが、以前と変わっていないことが1つあります。

それは申請前のチェックと申請後のチェックです。
正しい内容で申請ができるか、審査完了後に発行される公文書が正しい内容になっているかのチェックです。

<申請前のチェック>
□ 通勤手当を報酬に含めているか(就業場所の主が自宅の場合、報酬に含めていないか)
□ 定期券や回数券は1ヵ月あたりの額を報酬の額としているか?
□ 残業手当等の非固定的賃金も報酬に含めているか?
□ 7月1日現在の被保険者全員を届出の対象としているか?
□ 休職中(育児休業、私傷病休職)等により報酬の支払いを受けていない者も届出の対象としているか?
□ 月額変更届の対象者はいるか?(7月~9月の月額変更に該当する場合、届出の月額変更予定者にチェック済みか)
※ 7月の月額変更対象者は算定基礎届には記載せず、月額変更届で対応する。
□ すでに月変の手続きを行うべきであった者はいないか?(月額変更届が漏れていた方がいないか)
□ 年4回以上の賞与が支給される場合、報酬に含めているか?
□ 実際に報酬を支払った日の月を算定の対象としているか?
□ 遡り支給はないか?
□ 支払基礎日数が17日以上の月を対象としているか?(短時間労働者の場合、11日以上)
□ 月の中途入社の場合、入社月を除いた報酬額で申請ができているか?
□ 経費、慶弔見舞金等、賃金ではないものが含まれていないか?
□ 二以上勤務者となる方がいないか?

<申請後のチェック>
□ 発行された公文書に記載されている標準報酬月額が正しい額となっているか?

申請を行う時間が減少した分、事前のチェック等に時間を使えるようになり、後日誤りが見つかり訂正届を提出することがほとんどなくなったと感じています。
電子申請を導入したことで得られたメリットのひとつだと感じています。

まとめ

年に1回行われる算定手続きは、給与から控除される保険料に影響します。
正しい内容で申請ができるよう、事前に注意点などを整理しておき、確認・チェックをしっかり行いましょう。

本コラムの著者

社会保険労務士法人アールワン

社会保険労務士法人アールワン

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