ここがポイント!
- 今後10年間は新たな法令、制度が創設される
- 従業員が1,000人超の企業は、男性労働者の育児休業等の取得状況を年1回公表することが義務に
- 柔軟に働ける職場と育児休業を取得しやすい職場の雰囲気を作る
社会保険労務士法人アールワンの西嶋です。
現在、日本では少子高齢化が大きな問題となっています。
少子化に歯止めをかけなければ、人口減少により経済や社会保障制度などの維持が困難になるという状況があります。
そんな中、2023年6月13日に政府から「こども未来戦略方針」が発表されました。
この方針により、従業員の実生活、会社の労務管理に影響を及ぼすことが想定されます。
今回は、中でも注目していただきたい4点についてお伝えします。
目次
1. こども未来戦略方針が決定された背景
現在、日本では少子高齢化のスピードが加速しています。
2016年に子供の出生数が97万6,978人となり、初めて100万人を割り込みました。その後、2022年の出生数は77万747人となり、たった6年間で約20万人減少しています。
少子高齢化が進むと国の経済・社会保障制度が維持できず、経済の衰退、社会保障制度の崩壊につながります。
このような状況に歯止めをかける最後のチャンスと捉え、「こども未来戦略方針」が決定されました。
以下、会社が注目すべき点を4つ挙げて説明します。
2. 年収の壁があるため働ける人でも働くことを抑えてしまう現状
政府は次のように発表しています。
「106万円※1・130 万円※2の壁を意識せずに働くことが可能となるよう、短時間労働者への被用者保険の適用拡大、最低賃金の引上げに引き続き取り組む。」
内閣官房「こども未来戦略方針」令和5年6月13日(p.15)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_mirai/pdf/kakugikettei_20230613.pdf
具体的な改善内容は、今後は壁を意識せずに働ける環境づくりとして、年収106万を超え社会保険に加入して手取りが逆転しないよう、労働時間の延長や賃金アップに取り組む企業に対して費用の補助が検討されています。
最低賃金も上がる中、年収の壁があることで働く時間を抑えなければならない方達もいます。そうなると人手不足がいっそう加速して、事業収益は上がらず働きにくい状況が生じるため、年収の壁自体の見直しも検討すべきではないかと考えています。
※1 106万円の壁とは?
従業員が加入する社会保険には「扶養」の制度があり、一定の要件(収入など)を満たす家族は、「被扶養者」として健康保険料や年金保険料の負担なく社会保険に加入できます。
しかし、就業先が社会保険の適用拡大事業所(従業員101人以上)に該当する場合、以下となります。
- 就業が週20時間以上かつ月の給与88,000円となる場合、扶養を抜けて自身で社会保険に加入することになります。
- 年収106万を超えているどうかが、判断基準にもなります。
※2 130万円の壁とは?
就業先が社会保険の適用拡大事業に該当しない場合、以下となります。
- 年収130万を超えると扶養から外れ、自身で社会保険に加入する必要があります。
- 年収130万円未満は扶養から外れません。
3. 男性育休の取得促進
政府は次のように発表しています。
「給付面の対応として、いわゆる「産後パパ育休」(最大28日間)を念頭に、出生後一定期間内に両親ともに育児休業を取得することを促進するため、給付率を現行の67%(手取りで8割相当)から、8割程度(手取りで10割相当)へと引き上げる。」
※ 2025年度からの実施を目指して検討中
内閣官房「こども未来戦略方針」令和5年6月13日(p.20)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_mirai/pdf/kakugikettei_20230613.pdf
現在の男性の育児休業の取得率を調べると、17.13%※3という実態です。
※3 厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査」令和5年7月31日
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r04/07.pdf
厚生労働省により令和3年6月に育児・介護休業法が改正され、男性の育児休業取得の風潮が高まりました。
改正の中の1つとして「従業員が1,000人を超える企業の事業主は、男性労働者の育児休業等の取得状況を年1回公表することが義務」となったことで、企業は法的義務と企業イメージアップの双方で対応に力を入れるべき項目となっています。
現在では企業イメージアップのため、リクルート情報に男性の育児休業取得率を記載する企業も見かけます。
今後はそうした企業イメージアップのために、従業員が1,000人以下の企業も自主的に対応を進めるところが続々と出てくると思います。
男性の育児休暇についてさらに知りたい方は以下の記事もご参照ください。
4. 育児期を通じた柔軟な働き方の推進
政府は次のように発表しています。
①「こどもが3歳以降小学校就学前までの場合においては、育児・介護休業法で、 短時間勤務、テレワーク、フレックスタイム制を含む出社・退社時刻の調整、休暇など柔軟な働き方について、事業主が職場の労働者のニーズを把握しつつ複数の制度を 選択して措置し、その中から労働者が選択できる制度(「親と子のための選べる働き方制度(仮称)」)の創設を検討する。
さらに、現在はこどもが3歳になるまで請求することができる残業免除(所定外労働の制限)について、対象となるこどもの年齢の引上げを検討する。」
②「柔軟な働き方として、男女ともに、一定時間以上の短時間勤務をした場合に、手取りが変わることなく育児・家事を分担できるよう、こどもが2歳未満の期間に、時短勤務を選択したことに伴う賃金の低下を補い、時短勤務の活用を促すための給付(「育児時短就業給付(仮称)」)を創設する。」
※ 2025年度からの実施を検討中
③「こどもが病気の際などに休みにくい等の問題を踏まえ、病児保育の拡充と併せて、こうした場合に休みやすい環境整備を検討する。
具体的には、こどもが就学前の場合に年5日間取得が認められる「子の看護休暇※4」について、こどもの世話を適切に行えるようにする観点から、対象となるこどもの年齢の引上げのほか、こどもの行事(入園式等)参加や、感染症に伴う学級閉鎖等にも活用できるように休暇取得事由の範囲を見直すとともに、取得促進に向けた支援についても検討する。」
※ 介護休暇も同様に制度廃止になる見込み
内閣官房「こども未来戦略方針」令和5年6月13日(p.21-22)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_mirai/pdf/kakugikettei_20230613.pdf
子育てを行っている従業員は、働き方のニーズも人によって異なります。
働き方の選択肢が増えれば、仕事と家庭の両立も実現できます。
上記のような国の施策と会社の支援があれば、優秀な社員を退職させることなく、人材の確保ができると考えています。
※4 子の看護休暇とは?
労働者の子どもが病気やケガになった時に、取得できる法律で定められた休暇となります。
小学校就学児までが対象で、子供1人につき年間で5日まで取得が可能です。
また、子供が急病で仕事を休まないといけないなど、急を要する場合(当日請求)でも取得が可能です。
5. 雇用保険の適用拡大
政府は次のように発表しています。
「現在、雇用保険が適用されていない週所定労働時間 20 時間未満の労働者についても失業給付や育児休業給付等を受給できるよう、雇用保険の適用拡大に向けた検討を進める。」
※ 2028年度からの実施を検討中
内閣官房「こども未来戦略方針」令和5年6月13日(p.22)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_mirai/pdf/kakugikettei_20230613.pdf
育児のために長い時間の就業ができない方にとって育児休業給付金が受け取れるようになるのは、生活面では大きな助けとなります。
適用範囲拡大の具体的な要件は決まっていませんが、雇用保険の適用対象者が大幅に増加することが見込まれます(多様な働き方と子育ての両立支援)。
国の試算では、週の所定労働時間10時間以上とした場合は約500万人の新規適用、週の所定労働時間15時間以上とした場合、約300万人の新規適用が見込まれています。
6. 会社としてできることは何か?
1. 多様な働き方や育児休業を取得しやすい職場の雰囲気を作る
① 育児休業を取得することに後ろめたさを感じさせない雰囲気を作る
会社として育児休業の制度や取得を推奨しているという周知を定期的に行うことで、育児休業を取得することに前向きになってもらうようにする。こちらは、社内で実施する研修も有効な方法です。
また、休業中でも就業が可能なため、業務が気がかりで育児休業を取得することに抵抗がある方には、臨時で業務を行ってもらうことも可能であることを周知するとよいでしょう。こちらは、就業日数や就業時間が多いと育児休業給付金の受給に影響が生じるため、注意が必要です。
② 育児休業で休んだ人のフォローをしたら、評価する制度(賞与に反映)の検討
昨今の人手不足の問題もあり、育児休業の取得者が発生した際、簡単に欠員の補充ができる状況の方が少ないと思います。
休業を取得している方の業務のフォロー等が生じれば負担が増加します。そんな時、フォローした人を評価する制度があれば納得感を持って業務を行ってもらうことができ、又育児休業を取得する人も後ろめたさを感じなくなる効果があります。
③ 男性の育児休業の取得対象者が発生した場合、試験的に取得してもらう
強制することはできませんが、自社で育児休業の取得者が発生した場合、どんな影響があるのか実感してもらうことは 「どのように対応したら自分達の会社で育児休業を取得してらえるのか?」また、取得者が発生した場合、「どのように対応するのが良いのか?」考えるきっかけになります。
2. 新たに創設される手続き対応に備える
2025年以降、新たな手続きが創設されることが予想されます。
必然的に会社の労務担当者の負担が増すことになりますので、業務の効率化は必須となります。
そんな時、電子申請の導入やそれに付随する従業員への通知などにおいて、新たなシステムを導入することで業務を圧縮することが可能です。
電子申請への移行を検討されている方は以下の記事もご参照ください
まとめ
まだまだ検討中の制度がほとんどですが、新制度やそのための新たな手続きが創設されることは間違いありません。
負担が増して大変という視点ではなく、自分たちの会社がより良くなるためにはという視点で少しずつ考えていくことが大切だと思っています。
まずは今後に備え、今できることは何かを考えて行動していきましょう。
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