プロが教える! 電子申請導入のポイント
第45回
2024年4月から労働条件明示義務のルールが変更!
備えは済んでいますか?|変更箇所が一目でわかる早見表付き
- #労働条件
- #無期転換
- #業務の変更範囲
- #明示義務
ここがポイント!
- 有期労働契約と無期労働契約の違い
- 主な変更点は3つ
- 変更に沿った雇用契約への改定、社内体制の整備が必要
社会保険労務士法人アールワンの西嶋です。
「労働基準法施行規則」と「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」の改正に伴い、2024年4月1日から労働条件の明示事項等のルールが変更されます。
複数の変更がありますので
- なにが今まで以上に気を付けないといけないのか?
- どういうところに注意したらいいのか?
について従業員や実務担当者がすべきことと、ルール変更された内容を早見表を用いて分かりやすくお伝えします。
目次
1. 労働契約の基礎知識
<労働条件明示事項早見表>
表1
本題に入る前に労働契約の基礎知識についておさらいしておきましょう。
労働契約には、大きく分けて有期労働契約・無期労働契約の2種類があります。
有期労働契約とは
有期労働契約とは、契約期間に定めのある労働契約のことをいいます。1回の契約期間の上限は、原則として3年です。
専門的な知識等を有する労働者、満60歳以上の労働者との労働契約については、上限が5年となります。
無期労働契約とは
契約期間に定めのない労働契約のことをいいます。
※定年が定められている場合、その年齢に達するまで雇用が継続される契約となります。
<無期転換ルールについて>
同一の使用者(企業)との間で、有期労働契約が5年を超えて更新された場合、有期契約労働者(契約社員、アルバイトなど)からの申し込みにより、無期労働契約に転換されるルールのことをいいます。
有期契約労働者が使用者(会社)に対して無期転換の申し込みをした場合、無期労働契約が成立します。
※ 会社は原則、無期転換の申出を断ることができません。
2. 労働条件の明示義務とは?
労働条件の明示義務とは、労働契約を結ぶ(更新の場合も含む)際、使用者が労働者に対し、契約期間、就業場所や業務、労働時間や休日、賃金、退職などに関する事項を明示しなくてはならないと言う労働条件明示のルールのことです。
労働条件のうち、特定の事項は書面の交付による明示が必要です(FAX、電子メール等の明示もOK)。
※ 労働契約期間、労働契約更新の基準、就業場所及び従事する業務、始業・就業、休憩時間、休日賃金・昇給、退職の6つが特定事項となります。
3. 新しく追加される労働条件明示ルール
今回就業場所・従事業務の変更の範囲、更新上限無期転換申込機会、無期転換後の労働条件の明示義務化が変更点としてあります。
早見表を確認いただくと、すでに対応済という企業が多数なのではないでしょうか?
おさらいを兼ねて変更箇所をご説明します。
1. 就業場所・業務の変更範囲の明示
変更点:就業場所・業務の変更範囲を雇入れ時、契約更新時に明示が必須になりました。
対象は、全ての労働者です。
正社員、無期契約労働者だけでなく、パート・アルバイトや契約社員、派遣労働者、定年後に再雇用された労働者などの有期契約労働者も含みます。
変更の範囲の明示が必要になるのは、2024年4月1日以降に契約締結・契約更新をする労働者となります。
実務担当者がすべきこと:ただ明示を行うのではなく、対面で説明する機会を設けることが望ましいです。
従業員がすべきこと:明示を受けて不明点などがあれば労務担当者に確認することが必要です。
(例)
勤務場所 | (雇入れ直後)本社 | (変更の範囲)全国(北海道、大阪、広島、福岡) |
---|---|---|
仕事の内容 | (雇入れ直後)営業 | (変更の範囲)会社内での全ての業務 |
2. 通算契約期間または更新回数の上限の明示
通算契約期間または更新回数の上限を定めた時に明示が必須になりました。
対象は、パート・アルバイトや契約社員、派遣労働者、定年後に再雇用された労働者などの有期契約労働者となります。
① 更新上限の明示事項
変更点:有期労働契約の締結と契約更新のタイミングごとに、更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)がある場合には、その内容の明示が必要となります。
実務担当者がすべきこと:ただ明示を行うのではなく、対面で説明する機会を設けることが望ましいです。
従業員がすべきこと:明示を受けて不明点などがあれば労務担当者に確認することが必要です。
(例)1年契約で更新3年までの場合
明示内容:無・有 (更新 2 回まで/通算契約期間 3 年まで)
② 更新上限を新設・短縮しようとする場合の説明
変更点:更新上限を新設・短縮しようとする場合、契約更新時に労働者に説明を行うことが必須になりました。
実務担当者がすべきこと:文書を交付して個々の労働者ごとに面談等により説明する機会を設けることが望ましいです。
従業員がすべき事:明示を受けて不明点などがあれば労務担当者に確認することが必要です。
(例)契約当時は更新上限はなかったが、契約途中に更新上限を定める場合(途中から更新上限を4年とする場合)
明示内容:「通算契約期間の上限は4年間とする」を雇用契約書等に定める。
※ 説明については、文書を交付し個々の労働者ごとに面談を実施して説明をするのが望ましい。
※ 当初の契約から更新の上限がある場合でもトラブル防止のためにも改めて説明する機会を持つことを検討することが望ましい。
3. 有期契約労働者に対する無期転換申込機会の書面と明示
変更点:無期転換申込権(5年を超えて有期契約が更新された場合)が発生する契約更新のタイミングごとに、該当する有期労働契約の契約期間の初日から満了する日までの間、無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)を書面により明示することが必須になりました。
初めて無期転換申込権が発生する有期労働契約が満了した後も、有期労働契約を更新する場合は、更新の都度、上記の明示が必要になります。
対象は、無期転換申込権が発生する有期契約労働者となります。
実務担当者がすべきこと:無期転換制度について説明する機会を設けること、無期転換後に業務内容・責任に変更がある場合、社内で同じ業務を行っている従業員と均衡が保たれる労働条件となるよう検討が必要です。
また、無期転換の申込があった場合、会社は拒むことができません。
明示の例:2024年4月1日から1年契約で契約を更新していき、5年を超えた場合
無期転換権が生じるタイミングは下記です。
図1
4. 明示義務項目追加に伴って、会社で備えておかないといけないこと
1. 労働条件明示ルールの理解
単にルールの理解だけでなく、対象となる従業員への説明も必要となります。
更新に上限を設ける場合、事前の説明やその理由について丁寧に説明することが求められる為、対応方法を検討しておく必要があります。
※ 労使間トラブルを生じさせない対応が求められます。
2. 新たなルールに適用した雇用契約書(労働条件通知書)の改定
現在使用している雇用契約書(労働条件通知書)の改定が必要となります。
2024年4月1日以降の契約・更新から適用となりますので、2月中までには改定を終えておくことが望ましい。
追加すべき項目
① 就業場所・業務の「変更の範囲」の明示
② 更新上限(有期労働契約の通算契約期間または更新回数の上限)の有無とその内容の明示
③ 無期転換を申込むことができる旨、無期転換後の労働条件の明示(別紙で用意)
3. 労働者からの相談に対する社内体制の整備
会社は有期雇用労働者の雇用管理の改善に関する事項に対し、相談に応じ、適切に対応する体制を整備することが求められています(パート・有期労働法第16条)。
今回の明示条件の変更に伴い、無期転換権についても広く周知されることになります。
無期転換について相談があった場合、転換した場合の労働条件など丁寧な説明が求められる為、対応できる体制の構築が必要です。
無期転換に関する相談窓口
https://muki.mhlw.go.jp/policy/counseling.pdf?221221
厚生労働省 都道府県労働局「無期転換ルール特別相談窓口」2023年6月
<労働条件通知書のモデル様式>
図2 ※ 追加すべき項目が赤字で記載されています。
出典:厚生労働省「労働条件通知書のモデル様式」(PDF)
5. 労働条件通知書の電子化も可能
労働条件通知書は、紙で配布する以外に電子で配布することも可能です。
電子で配布を行う場合、下記の条件を満たす必要があります。
- 労働者からの希望
- 書面として出力(印刷)可能な手法で配布
まとめ
今回のルール変更は労使間トラブルの防止、働く労働者に対する会社側から配慮が強く求められることになります。
法令違反や労使間トラブルを生じさせないためにも、事前の準備が大切になります。
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