賞与(ボーナス)を支給する際、企業が必ず対応しなければならないのが「賞与支払届」の提出です。
賞与支払届は、健康保険分は全国健康保険協会または健康保険組合に、厚生年金分は年金事務所(日本年金機構)に提出が必要です
従来は紙での提出が一般的でしたが、近年は電子申請が普及しつつあります。
本記事では、賞与支払届の基礎知識から、電子申請の方法・メリットまでを解説します。
目次
1. 賞与支払届とは?
賞与支払届は、健康保険・厚生年金保険に加入している従業員に対して賞与(いわゆるボーナス)を支給した際、賞与金額と支給日を全国健康保険協会または健康保険組合、年金事務所に報告するための法定書類です。
報告された賞与額に基づき、保険料が適正に算出され、従業員の保険記録に反映されます。
社会保険制度は、賃金や賞与などの報酬に応じて保険料を徴収し、その記録をもとに将来の年金給付や傷病手当などの給付に活用される仕組みです。
企業にとっては、賞与支払届の提出を通じて、以下のような目的・役割を果たすことになります。
- 保険料の正確な計算と納付
→ 誤った報告は過大・過小な保険料納付につながり、企業にも従業員にも不利益をもたらします。 - 従業員の社会保険記録の正確性確保
→ 将来の年金受給額や出産手当金・傷病手当金などの算定にも影響します。 - 法令遵守とリスク回避
→ 社会保険関連の届出義務に違反した場合、事後指導や追徴、企業としての信用失墜に繋がるリスクもあります。
なお、月々の給与に関しては「報酬月額算定基礎届(算定基礎届)」や「月額変更届」で対応しますが、賞与は別枠として賞与支払届での報告が必須です。
報酬月額算定基礎届や月額変更届については以下の記事もあわせてご参照ください。
2. 提出が必要なケースと注意点
- 提出対象者|正社員だけでなく、社会保険加入者全員が対象
賞与支払届の提出対象となるのは、健康保険および厚生年金保険に加入しているすべての従業員(70歳以上を含む)が対象です。
これには正社員はもちろん、パート・アルバイト、契約社員などの非正規雇用者であっても、社会保険に加入している場合は含まれます。注意が必要なのは、「短時間勤務であっても、社会保険に加入している(被保険者である)場合は提出対象になる」という点です。
例えば、週20時間以上働いており、一定の収入基準などを満たして被保険者となっているアルバイトにも賞与が支給される場合、必ず賞与支払届の提出が必要です。
- 提出先|加入している健康保険制度によって異なる
提出先は、企業が加入している健康保険制度によって異なります。- 協会けんぽ(全国健康保険協会)加入企業
→ 所轄の年金事務所(日本年金機構)へ提出します。
健康保険と厚生年金保険の両方を同時に届け出る形になります。 - 健康保険組合加入企業
→ 各所属の健康保険組合へ提出します。
ただし、厚生年金保険に関する情報は年金事務所にも提出する必要があります。
健康保険と厚生年金で提出先が分かれるケースがあるため注意しましょう。
- 協会けんぽ(全国健康保険協会)加入企業
提出ミスや提出先の誤りは、保険料計算の誤差や事務手続きの遅延につながるため、各制度の運営主体を確認のうえ対応しましょう。
- 提出期限|「賞与支給日から5日以内」は厳守
賞与支払届の提出期限は、賞与を実際に支給した日から5日以内と定められています。この期限を過ぎると、社会保険料の納付時期が遅れ、延滞金が発生したり、従業員の将来の給付に影響が出たりするリスクがあります。
特に多くの従業員に賞与を支給する企業では、支給日当日の事務作業では間に合わないことも多いため、事前の準備が重要です。給与システムの連携や電子申請の活用で、スムーズな提出を目指しましょう。
3. 電子申請での提出方法
電子申請の活用が進む中、賞与支払届の提出方法も見直されています。
紙での提出に加え、インターネットを通じた電子申請にも対応しており、実務における利便性が向上しています。
▷ e-Gov(イーガブ)を活用した申請
e-Govは、デジタル庁が提供する行政情報ポータルサイトで、各省庁が管轄するオンライン申請や届出を一括で取り扱うためのプラットフォームです。
賞与支払届をはじめとする社会保険関連の手続きも、e-Gov上で申請可能です。
このプラットフォームでは、対象手続きの検索、必要書類の確認、電子証明書の活用による本人確認まで一貫して行えます。紙の提出に比べて手間が少なく、提出ミスや記入漏れを防ぎやすいのが特徴です。
中小企業や、専用の労務システムを導入していない事業所でも比較的導入しやすい手段といえます。
ただし、現時点では健康保険組合への電子申請はできませんので注意が必要です。
▷ マイナポータル申請
一方で、マイナポータルを利用した電子申請は、主に人事・給与システムとAPI連携して運用される企業向けの方法です。
マイナポータルは、デジタル庁が提供するオンライン行政サービスの窓口で、子育てや介護をはじめとする個人向けサービスが中心ですが、企業による社会保険手続きにも対応しています。
ただし、マイナポータル単体から手続きできるわけではなく、マイナポータル対応のシステム(API連携済み)を通じて申請する必要があります。
原則として、健康保険組合はマイナポータル経由の届出に対応しているとされていますが、加入している健康保険組合ごとに受付の範囲が異なりますので事前確認が重要です。
4. 提出を怠った場合のリスク
賞与支払届は、健康保険法・厚生年金保険法に基づく法定の届出義務です。提出を怠ったり、期限を過ぎたりすると、企業および従業員に以下のようなさまざまなリスクや不利益が生じる可能性があります。
(1)社会保険料の追徴や延滞金の発生
賞与支払届に基づいて、賞与額に対する健康保険・厚生年金保険料が計算されます。
これを提出しなければ、当然ながら保険料の算定・徴収が適正に行えなくなります。
届出が遅れた場合でも、後日さかのぼって提出することになります。
(2)従業員の保険記録に不備が生じる
賞与支払届の情報は、被保険者である従業員一人ひとりの保険記録に反映されます。
この記録は、以下のような社会保障の給付に直結する非常に重要なデータです。
- 将来の老齢年金の受給額
- 出産手当金・傷病手当金などの保険給付金の算定基準
- 標準賞与額の累計に基づく支給履歴
賞与支払届が提出されないことで、こうした記録の不備が生じ、従業員が将来的に本来受けられる給付を受けられない可能性があります。
これは企業としての社会的責任を果たせない事態にもつながりかねません。
(3)企業としてのコンプライアンスリスク
賞与支払届の不提出や提出遅延は、法令違反行為に該当します。
悪質なケースとみなされた場合、年金事務所などからの行政指導や是正勧告の対象となる可能性もあります。
また、労務管理の不備として社外に伝わることで、企業イメージや信頼性の低下にもつながりかねません。コンプライアンス違反が企業価値に与える影響は無視できない問題です。
こうしたリスクを回避するためには、賞与支給の決定から実際の支給日、そして届出の提出期限までを一貫して管理するスケジュール体制の整備が不可欠です。
5. 賞与支給時に迷いやすいケース別対応
賞与を支給する際は、従業員の状況によって賞与支払届の提出が必要であるのか、不要であるのかが異なります。
▷(1)退職者に賞与を支給する場合
- 退職前に支給された場合は提出が必要。
- 退職後に支給された場合は提出不要。
(例:12月10日支給/12月11日退職 → 必要、12月10日支給/12月5日退職 → 不要)
▷(2)同月に複数回賞与を支給した場合
提出が必要です。同月内の賞与は合算して1回分として扱います。
▷(3)年間4回以上の賞与を支給した場合
年に4回以上、かつ一定の頻度で支給される場合は、報酬として取り扱われる可能性があり、原則として賞与支払届の対象外になります。ただし、支給の実態や就業規則によって判断が分かれることがあるため、注意が必要です。
支給総額を月割りにし月額報酬として扱い、定時決定または随時改定の報酬に加算します。
※ 賞与の種類が異なる場合は別回数としてカウントされるため注意しましょう。
▷(4)産休・育休中に賞与を支給した場合
保険料は免除されますが、年金記録に反映されるため賞与支払届は必要です。
▷(5)賞与支払予定月に支給がなかった場合
不支給として総括表を届け出る必要があります。
▷(6)70歳以上の従業員に賞与を支給する場合
厚生年金の資格は喪失していますが、年金支給額調整のため届出が必要です。
※ 提出にはマイナンバーまたは基礎年金番号の記載が必要です。
まとめ
賞与支払届は社会保険の適正な運用に欠かせない届出です。
特に提出期限を過ぎると企業・従業員の双方に不利益が及ぶ可能性があるため、確実な対応が求められます。
近年は電子申請の環境も整い、使いやすさや利便性が向上しています。
まだ電子申請を導入していない企業も、業務の効率化・法令遵守の観点から、早期の切り替えを検討する価値は大いにあると言えるでしょう。
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