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人的資本経営とは?
概要、推進のポイント、企業の実践事例などをご紹介

近年、ESG投資への世界的な注目を背景に、日本でも2020年から経済産業省による人的資本経営の推進活動が強まっています。2023年からは「人的資本開示の義務化」が施行されており、特に大企業を中心に、人的資本経営に取り組む優先度が高まってきています。

また人的資本経営は、幅広い産業の中小企業においても、変化の激しいビジネス環境にいち早く適応し、イノベーションを起こすための有用な経営手法です。今回は、人的資本経営の概要、推進のポイント、企業の実践事例などをご紹介します。

1.人的資本経営の概要

はじめに、人的資本経営の概要と、日本で特に注目されるきっかけとなった「人的資本経営の開示義務」についてご紹介します。

(1)人的資本経営とは

企業活動における資本(経営資本)は、財務資本、製造資本、知的資本、社会・関係資本、自然資本、人的資本の6種類に大別されます。

従業員一人ひとりの能力やスキル、知識を、企業が積極的に投資すべき「資本」と捉え、その能力の最大化を図ることで企業価値の向上につなげる経営手法を「人的資本経営」といいます。従来型の経営との主な違いは以下のとおりです。

①人材に対する考え方

従来型の経営で人を機械設備などと同じようにコストの対象として扱ってきた考え方や手法とは異なり、人的資本経営は、人を企業成長や事業拡大に必要不可欠な投資対象として捉えていることを指しています。そのため、投資対象となる人的資本にお金や時間などを積極的に投資し、企業の価値向上へとつなげる大きなリターンを得ることが人的資本経営の大きな目的になります。

②人材マネジメントの目的や主導する組織

前述のとおり従来型の経営では、人を「資源」として捉えていたため、人材マネジメントにおいても適切なコスト管理の側面がありました。一方、人的資本経営における人材マネジメントでは、人を「資本」として捉え、経営と人事が一体となった「価値創造」を目的としているため、両者の視点は大きく異なってきます。

③人事部に求められる役割

人的資本経営では、人事部に「求められる役割」も変わってきます。従来型の人事部では、課せられたミッションをいかに最適な形で達成するかを立案した人事戦略を遂行することに重きを置いていました。それに対して人的資本経営においては、人事が持つ知見を活かして経営に提言し、企業全体の戦略策定に関与することに重きを置いています。つまり人的資本経営では、企業の人的資本を最大限に活用し、経営目標の達成を支援するための「人材戦略」の遂行が求められているのです。

(2)人的資本経営が注目される主な背景

①ビジネスにおける差別化を生み出すのは「ヒト」

6つの経営資本のうち、従来は機械設備やITツールといった製造資本に投資してサービスや事業の価値を高め、他社との差別化を図ることが一般的でした。しかし、第四次産業革命ともいわれる今日、多くの産業や市場にテクノロジーが浸透して、製造資本だけでは差別化が困難になってきています。

いま求められる考え方は、財務資本や製造資本などを「どのように使って、新たな価値創造(イノベーション)を生み出すか」であり、そのアイデアの創造・実行の主体となる「ヒト」=「人的資本」が、経営において相対的に大きな比重を占めつつあるということです。

そのため事業拡大における「投資先」として従業員の能力などの「ヒトの価値」に注目が集まっています。

②ESG投資やSDGsの浸透

ESG投資とは、企業活動における「環境(Environment)・社会(Social)・統治(Governance)」の取り組みを評価して投資することを指します。従来、投資の判断基準は財務資本が中心となっていました。一方、ESG投資では財務資本を除いた5つの非財務資本(非財務情報)の価値によって「中長期的に持続可能な企業」と判断され、企業評価が高まるという潮流が海外を中心に生まれています。人的資本はESGの「S=社会(Social)」のカテゴリに含まれているため、注目される機会が増えているのです。

また、SDGs(持続可能な開発目標)に掲げられている目標(ゴール)のうち、第8項目である「働きがいも経済も」が、人的資本経営と非常に親和性が高いということも注目の一因と考えられています。SDGsに対する企業活動が活発になる中、人的資本経営に対する意識も高まっていくことでしょう。

③人材や働き方の多様化(ダイバーシティ&インクルージョン(D&I))

昨今は少子高齢化によって労働力の確保が困難になっています。人的資本経営は、多様な個性を持つ人材、一人ひとりの能力等を引き出していくことでもあるため、組織の生産性向上につながり、ひいては人材不足の問題にも対応できます。

また、多様な考えが受け入れられる職場では、従業員が「自分は尊重されている」と感じられるため、エンゲージメントや組織定着率が向上し、中長期的な組織力の強化につながります。

更に多様性を受容することは、性別や年齢、国籍などに捉われない様々な視点や価値観を取り入れることでもあり、同質的になりがちな組織に革新的なアイデアやイノベーションが生まれやすくなります。

このように 「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」は、人的資本経営を推進するうえで大切な要素の一つとなっているといえます。

(3)人的資本経営で開示義務のある情報

2023年3月期以降、人的資本に関する情報開示が義務化されて大きな話題となりました。対象となる企業は、金融商品取引法第24条で有価証券報告書を発行している約4,000 社の大手企業であり、人的資本に関わる開示義務項目は「戦略」と「指標及び目標」の2項目です。国を挙げて人的資本経営を推進している現状と開示すべきとされている7分野19項目を認識しておくことは、成長を目指す多くの企業経営者にとって重要といえます。

また、女性活躍推進法により、現在「男女賃金の差異」について労働者301人以上の一般事業主に情報開示が義務付けられています。さらに厚生労働省は、対象企業を労働者101人以上の一般事業主に拡大し、男女賃金の差異だけでなく、女性管理職比率についても公表を義務化する改正法案を提出しました(今後国会で審議予定:2025年3月末現在)。

加えて、育児・介護休業法の改正により、2023年4月から労働者1,000人以上の事業者には「育児休業取得状況」の公表も義務化されていますが、2025年4月には労働者301人以上の事業者に対象が拡大されます。

2. 人的資本経営に必要な3つの視点・5つの要素とは

日本における人的資本経営の火付け役となった「人材版伊藤レポート(経済産業省)」では、人的資本経営の3つの視点(3P)と5つの要素(5F)による「3P・5Fモデル」が提唱されています。これらは人的資本経営推進のポイントにもつながります。

(1)人的資本経営における具体的なアクション

「人材版伊藤レポート2.0」において、人的資本経営では経営層・取締役会・投資家のそれぞれの役割や求められるアクションが提言されています。

①経営陣の役割、アクション
 ・企業理念、企業の存在意義や経営戦略の明確化
 ・ 経営戦略と連動した人材戦略の策定、実行
 ・ CHROの設置・選任、経営トップ5C(CEO、CSO、CHRO、CFO、CDO)の密接な連携
 ・ 従業員・投資家への積極的な発信・対話

②取締役会の役割、アクション
 ・人材戦略に関する役割の明確化
 ・ 人材戦略に関する監督・モニタリング

③投資家の役割、アクション
 ・ 中長期的視点からの建設的対話
 ・ 企業価値向上につながる人材戦略の「見える化」を踏まえた対話、投資先の選定

(2)人的資本経営に必要な3つの視点(3P)

① 経営戦略と人材戦略の連動

人的資本経営において、経営戦略と密接に連動した人材戦略の遂行が必要不可欠です。採用、育成、配置などの人材戦略を構築する際は、人的資本経営の観点に立った経営戦略のつながりを意識する必要があります。

② As is – To beギャップの定量把握

企業の現状である「As is」と理想形の「To be」について、定量的な数値として把握することが重要です。特に人事領域においては定性的な評価が多くなりがちなため、前述した人的資本にかかる指標を意識的に活用する必要があります。

③ 企業文化への定着

PDCAサイクルを回しながら、人的資本経営の考え方を企業文化に浸透させる必要があります。そのためには従業員一人ひとりが、長い月日をかけて企業理念に基づいた意識で行動し続けなければなりません。また、経営層が、企業の最終的なゴールとなる「あるべき姿」などを従業員に発信し続ける必要もあるでしょう。

(3)人的資本経営に必要な5つの要素(5F)

① 動的な人材ポートフォリオ

人材ポートフォリオは「どのような人材」が「どこに」「何人」「何年」いるかなどを可視化し、人材戦略を構築する際に活用します。そのうえで重要なことは、各企業の環境や市場の変化に合わせて、人材ポートフォリオを柔軟にコントロールし、適切な人材の再配置を行う「動的な人材ポートフォリオ」を把握しておくことです。

② 知・経験のD&I

イノベーションを創出するためには、D&Iによる積極的なコミュニケーションが生まれる組織の構築が有用とされています。多様性(ダイバーシティ)を活かすための受容性(インクルージョン)の取り組みが重要な要素だとされています。

③ リスキル・学び直し

企業によるリスキリングや学び直しは、人的資本の能力、スキル向上という観点から必要不可欠といえるでしょう。企業が従業員に学習機会を提供する際は、普段の業務との調整や教育コストの費用対効果の検証、リスキリング後の配置などを事前に計画しておく必要があります。

④ 従業員エンゲージメント

従業員エンゲージメントの向上は人的資本経営において重要な要素です。コミュニケーションの活性化やポジション公募制、健康経営などの施策を丁寧に実施したうえで、従業員の組織への帰属意識を検証する必要があるでしょう。

⑤ 時間や場所にとらわれない働き方

従業員エンゲージメントの向上やイノベーション創出、人材の確保といった多様な観点から、テレワークやリモートワークといった時間や場所に捉われない働き方の導入も重要とされています。

3. 人的資本経営に取り組む主なメリット

人的資本経営の推進がもたらす主な4つのメリットをご紹介します。

(1)従業員エンゲージメントの向上

人的資本である従業員が日々働くための活力を向上させることは、人的資本の価値向上に寄与する重要な要素です。特に従業員の企業活動に対する理解度・帰属意識・行動意欲を示した指標である「従業員エンゲージメント」は、内閣官房の「人的資本可視化指針」でも企業価値向上につながると重要視されています。

(2)従業員の能力・スキルの見える化

人的資本経営では、人材に効果的な投資を行うことを目的に、人材データの見える化を図る企業が多く見られます。保有資格や業績評価などの社内評価に加え、社外の第三者が行う「人材アセスメント」の結果も活用したスキルマップなどを用いて、従業員一人ひとりの長所や短所を明らかにすることは、投資すべき対象を明確にすることにもつながります。また企業の人的資本を定量的に把握することは、効果的な人材配置やパーソナライズ化された教育機会の提供を実現することにもつながります。

(3)ブランド価値の向上や、優秀な人材の確保

経営戦略と人材戦略が連動した人的資本経営の計画や、KPIの達成状況をはじめ、中長期的な成長のストーリーラインを積極的に開示することよって、各ステークホルダーに自社の魅力が伝わるとともに、ブランド価値の向上につながります。また、従業員エンゲージメントの向上は、組織のあるべき姿の実現に向かう風土の醸成へと導き、そこで活き活きと働く従業員に触れた応募者からの好評価も得られやすくなるため、結果的に採用率の向上や優秀な人材の確保にもつながります。

(4)イノベーション促進

人的資本経営の推進によって、従業員から生まれるアイデアや創造力は、あらゆる企業活動におけるイノベーションの原動力になります。優秀、かつ多様性のある人材が育つ、集まることによって、自由闊達な議論や、様々なアイデア・仕組みが生まれ、組織全体のイノベーションを促進することにつながります。

4. 人的資本経営を実践する企業事例

人的資本経営に早くから取り組んでいる企業の実践事例をご紹介します。以下、経済産業省が発表した「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~ 実践事例集」から抜粋してご紹介します。

出典:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~ 実践事例集」(PDF)

(1)旭化成株式会社

旭化成株式会社は人的資本経営の取り組みとして「M&A、CVC、マイノリティ投資などによる人財ポートフォリオの拡充」「自社に重要なエンゲージメントの特定」「高度専門人財の要件定義と育成人数のKPI化」の3つを実施しています。個人と組織の双方の成長を目指すための活動を具体化し、M&Aや社外投資を含めた人材の充足など教育・採用面などの幅広い領域で人的資本経営を行っています。

(2)花王株式会社

柔軟で能率的な働き方の実現や立場を超えた連携、挑戦しやすい環境づくり、専門性の高いキャリア・人財開発を行い、従業員の活力の最大化に向けた人財開発活動による中長期経営目標の達成を目指し、経営トップを委員長とする「人財企画委員会」を毎月開催し、人財開発に関する課題や施策に関する議論や進捗状況の共有を行っています。また、人事部とD&I推進部、各現場が一体となって「D&I視点の人財開発」を推進し、多様な人材が活躍できる職場づくりを目指しています。

(3)ソニーグループ株式会社

コース別新卒採用などの「個を求む」、技術戦略コミッティによる優秀な技術者育成といった「個を伸ばす」、従業員のアイデア実現制度による「個を活かす」という3つの戦略を柱にして人事戦略を体系化することで、多様な個を軸とした人事戦略を実行しています。また「クリエイティビティとテクノロジーの力で世界を感動で満たす」というパーパスを定義し、経営陣と従業員が対話する機会を設けており、経営陣の業績連動報酬にエンゲージメントスコアを連動させるなど、パーパス浸透・エンゲージメント向上への経営陣のコミットメントを図っています。

(4)株式会社LIXIL

「企業文化とエンゲージメント」「従業員の活躍を支援する効果的な管理職の育成」「従業員の主体的なキャリア形成の推進」という関連性の高い3つの柱で人材戦略の構築を図っています。特にインクルージョンの施策を重視しており、2030年までに「取締役・執行役の50%を女性にする」「全世界の管理職の30%を女性にする」といった具体的なKPIを設定しています。この他にも、従業員の成長を加速する育成プログラムを策定・運用、従業員一人ひとりの起業家精神を醸成する社内公募制度、業務時間の20%を社内での副業に充てる制度の試行など、従業員の主体的なキャリア形成も支援しています。

5. 人的資本経営推進には人事DXへのアプローチも必要

前述した人的資本経営に必要な要素やメリットなどからも、今後は人的資本データを定量化・可視化できる態勢を社内で整備しておくことが重要になります。

いま、多くの企業が人事システムなどの導入により、統合的な「人材データベースの整備」を進めていますが、実態は社員の保有資格、経年の評価、スキルの可視化を中心としたデータの収集に留まっているケースが多いという声が聞かれます。人材戦略の遂行においては、企業内に散在する人事データを包括的に管理・把握を行う必要があり、いつでも、誰でも、目的に適ったデータを利活用できる「人事データプラットフォーム」の構築が重要です。

例えば、Datamanegy HR(データマネジー)は、企業の人事・給与システムや財務システム、Excel等に散在するデータを収集・統合し、人的資本データを一元的に管理するデータプラットフォームです。経営管理部門や人事部門におけるデータマネジメントの稼働を大幅にカットし、常に最新のデータを可視化・利活用することで、迅速な経営判断、人的資本経営の推進を支援します。これから人的資本経営に取り組む企業の方々は、導入をご検討ください。

参考サイト:Charlotte Datamanegy HR(データマネジー)| 戦略的な人的資本経営を支援するデータマネジメントサービス | 労務領域の電子申請・業務効率化を支援する「Charlotte(シャーロット)」

Datamanegy HR編集部

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