プロが教える! 電子申請導入のポイント
第38回
月額変更届とは?イレギュラーケース5点
記載方法と時間外労働の注意点
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ここがポイント!
- 報酬額が変わった際には、月額変更届に該当するか確認が必要
- 産休・育休明けの月額変更届の注意点
- 月額変更届を忘れず申請するためには、直近3ヶ月の賃金台帳を確認
社会保険労務士法人アールワンの西嶋です。
社会保険料は算定基礎届の標準報酬月額の見直しにより定期的に変更されますが、昇給や降給があった場合、月額変更届の対象となり、標準報酬月額の見直しが行われることがあります。
月額変更届は単純な申請から複雑なものまであります。
今回はイレギュラーな月額変更について5つ例に挙げ、さらに産前産後休業・育児休業明けの社員対応についてもお伝えいたします。
目次
1. 月額変更届について
月額変更届とは、昇給や降給などにより、報酬額が大きく変わった際に(2等級以上)標準報酬月額を見直す手続きです。
算定基礎届により、1年に1回標準報酬月額の見直しが行われますが、昇給や降給によって保険料の徴収額に差ができないよう
行う必要がある手続きです。
※ 算定基礎届の詳細は、第13回コラムをご確認ください。
第13回
7月に入ったら算定基礎届の提出が必要です。
電子申請で申請すれば、大幅な業務効率化につながります!
2. 報酬の変更が少なくても月額変更届に該当してしまう場合
報酬の変更が少ない額でも時間外労働が多く発生し、時間外手当が支給されている場合、月額変更届に該当することがあります。月額変更届の確認は固定で支給される給与(基本給、手当など)と稼働実績で支給される時間外手当や日直手当なども含めて確認を行うため、時間外労働が多いと2等級以上上昇し、該当してしまうことがあります。
また、2023年4月から60時間を超える時間外労働の割増率の改定が行われており、こちらも少なからず影響してきます。
3. 月額変更届のイレギュラーケースと注意点
1. 昇給分が遡って支給された場合
遡りの昇給があった場合、その差額を支給された月が月額変更届の起算月となります。
この場合、その支払われた差額を含めてしまうと標準報酬月額が高くなってしまうため、その分は除いて月額変更届に
該当するか確認を行います。
【記載方法】
例:従前の標準報酬月額220,000円 4月昇給差分15,000円が5月に支給された場合
遡及支払い額に差分で支給した金額を入力し、修正平均額欄に差分を除いた1ヶ月平均額を記載します。
新たな標準報酬月額は、修正平均額に基づき決定されます。
2. 二以上勤務者のいる場合
主選択事業所・非選択事業所ともに主選択事業所を管轄する年金事務所(健康保険組合)に申請を行います。
(算定基礎届と扱いは同じです)
【記載方法】
備考欄の二以上勤務者の欄にチェックをつけて申請を行います。
非選択事業所の届出も主選択事業所を管轄する年金事務所(健康保険組合)に提出することになりますので注意しましょう。
2以上勤務者の月額変更届ですが、主選択事業所と非選択事業所の報酬額で2等級差以上の差があるかではなく、主選択事業所・非選択事業所ごとの報酬に対して2等級差が生じているかで確認を行い、届出を行います。
例:主選択事業所から支給される報酬に変更があった場合(従前報酬300,000円)
※ 二以上勤務者の詳細は、第18回コラムをご確認ください。
第18回
2つ以上の事業所に雇用される際、適用となる二以上勤務被保険者が増える可能性も。
実務上の整理を行っておきましょう。
3. 70歳以上の被用者月額変更届
70歳に到達すると厚生年金の資格は喪失しますが、被用者として算定基礎届・月額変更届・賞与支払届の申請が必要となります。
(75歳未満であれば、健康保険は通常通り月額変更届の申請を行います)
【記載方法】
70歳の被用者算定基礎届は、基礎年金番号の記載と備考欄の70歳以上の被用者月額変更欄にチェックが必要です。
4. 昇給・降給が続いた時
報酬額の変更があった月を起算月として確認を行いますが、連続して昇給や降給があった場合でも変動があった月を起算月として該当するか確認を行います。
例:4月に基本給20,000円昇給 5月に役職手当40,000円増額した場合
① 4月、5月、6月の3ヶ月の報酬で現在の標準報酬月額と2等級差あるか確認を行います。
② 5月、6月、7月の3ヶ月の報酬で現在の標準報酬月額と2等級差あるか確認を行います。
⇒ ①で7月月額変更届に該当した場合、7月から適用となる標準報酬月額と比較して2等級差あるか確認を行います。
5. その他
① 通勤費(6ヶ月分定期など)が一定の月に支給される場合、1ヶ月分の額に按分後、各月に加算して月額変更届に該当するか確認を行います。
② 年4回以上賞与が支給される場合、定時決定(算定基礎届)で算定した賞与に係る報酬額はその後の随時改定(月額変更届)でも加算することが必要です。
6月月変までは、直前の算定時に対象となった年4回以上賞与の 12分の1 を変動月以降の3ヶ月間の各月の報酬月額に加算し、
7月月変からは前1年に支払われた年4回以上賞与の 12分の1 を加算して月額変更届に該当するか確認を行います。
4. 産前産後休業・育児休業明けの月額変更届
産前産後休業・育児休業を取得していた方が、職場復帰した際に、時短勤務や時間外労働が生じないことで報酬が休業前と比べて変動することがあります。このような場合、標準報酬月額の改定を行うことができます。
通常の月額変更届との違いは、現在の標準報酬月額と比べて1等級以上の差がある場合、届出を行うことができ、復帰した月から3ヶ月間の報酬額を算定対象とします(原則、被保険者本人からの申出が必要です)。
※ 通常の月額変更届と違い、1等級以上差が生じれば月額変更届の対象となります。
例:9/11育児休業復帰した正社員の方の場合(当月末日〆翌月25日払いの場合)
10月に支給された報酬については支払基礎日数が17未満のため、対象外となり11月に支給された報酬のみ月額変更届の対象となります。
※ 電子申請届出を行う場合、委任状の添付が必要となります。
<豆知識>
産前産後休業・育児休業明けの月額変更届を行うことのメリット
時短勤務などで報酬に変動があった場合、現行の報酬に合った標準報酬月額に改定が可能です。
月額変更届により標準報酬月額が下がっても、養育期間特例※1の申出を行えば、厚生年金の計算を従前の標準報酬月額で行うことが可能です。
※1 補足1
養育期間特例とは、養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置のことです。
養育期間の従前報酬月額のみなし措置の届け出はお子様が3歳までの間に短時間勤務の給与額減少に伴い、厚生年金の標準報酬月額が下がっても従前の標準報酬月額で将来の年金の計算を行える手続きです。
※1 補足2
令和6年以降にCharlotte電子申請からでも、養育期間特例の電子申請が可能になります。
※ 令和6年に法改正(様式変更)を控えているため、法改正以降の公開となります。
5. 月額変更届を忘れず申請する方法
月額変更届で大事なことは、手続きを漏らさないことです。
算定基礎届と違い不定期で発生する手続きとなるため、予め把握しておく習慣がないと漏れてしまいます。
忘れず申請するためには
① 給与計算時に昇給・降給、勤務形態の変更があった場合、履歴を残す。
→ 変動があった月から3ヶ月後に月額変更届に該当するかチェックできるよう、自社オリジナルの管理表などを作成する。
② 毎月の給与計算時に月額変更の対象がいないか確認する。
→ 自社オリジナルで給与計算のチェックリストなどを作成し、月額変更届の対象者がいないか反映しておく。
人事管理ソフトや給与ソフトで自動的に月額変更対象者を判定してくれる機能もありますが、イレギュラーなケースなどには対応していないことがほとんどですので、チェックする際は直近3ヶ月の賃金台帳を確認しましょう。
まとめ
算定手続き同様に月額変更届も給与から控除される保険料に影響します。
正しい内容で申請ができるよう、事前に注意点などを整理しておき、手続きが漏れないよう対応することが大切です。