パートタイムやアルバイトで働く方にとって、「103万円の壁」と「130万円の壁」は家計や働き方に大きな影響を与える重要な基準です。これらの壁は、年収が一定額に達すると所得税や社会保険料の負担が増えることを意味し、企業の労務管理においても見逃せない要素となっています。
今回のコラムでは、「103万円の壁」と「130万円の壁」がどのように労働者や企業に影響するのか、またそれに対して企業が取るべき対応や最新の法改正動向について解説します。
目次
1. 103万円と130万円の壁とは?
「103万円の壁」と「130万円の壁」は、主にパートタイムやアルバイトなどで働く従業員の年収が一定額を超えた際に、所得税や社会保険料の負担が生じる基準を指す言葉です。
年収の「壁」を超えると税金や保険料の負担が増加し、家計に影響を及ぼすため、パートタイム労働者やその家族にとっては重要な基準となっています。
企業の労務・人事担当者にとっても、年収の壁の理解は欠かせません。従業員が意図せず壁を超えることで、扶養控除や保険負担に変化が生じるだけでなく、労働時間の調整や年収シミュレーションの提供など、労務管理における対応が求められるケースも多いからです。
企業の労務・人事担当者にとっては、従業員がこの基準を超えた場合に生じる影響や、雇用者側としての対応が求められる場面もあり、労務管理上の重要な課題の一つとなっています。
2. 103万円・130万円のそれぞれの壁の影響
「103万円の壁」と「130万円の壁」は、年収が一定の金額に達した際に、税や社会保険の負担が大きく変わるポイントを指します。
103万円の壁を超えると所得税の課税対象となり、130万円の壁を超えると扶養から外れ、社会保険の支払いが必要になります。これらの壁は、パートタイムやアルバイトをする従業員やその家族にとって重要な基準であり、企業の労務管理上も影響が大きいため、理解しておきましょう。
103万円の壁:所得税への影響
103万円の壁とは、パートタイムやアルバイトで働く人が年収103万円を超えた際に、所得税が発生する基準です。(表1参照)この金額は、基礎控除48万円と給与所得控除55万円を合わせた非課税限度額として設定されています。
103万円以下であれば所得税はかかりませんが、103万円を超えると所得税が課されるため、手取り額に影響が出ることがあります。
また、この壁を超えると、扶養に入っている親や配偶者の所得税控除が変わる場合もあります。従業員への影響を丁寧に説明し、収入の計画を立てやすくする配慮が必要です。
表1
項目 | 103万円の壁 |
---|---|
該当する年収 | 103万円以下 |
対象者 | 主にパートタイム・アルバイトの従業員 |
超えた場合の影響 | 所得税が発生 |
扶養控除 | 親や配偶者の所得税控除が変わる可能性 |
130万円の壁:社会保険への影響
130万円の壁とは、パートタイムやアルバイトで働く人が年収130万円を超えた際に、配偶者や親の扶養から外れて自ら社会保険に加入する必要が出てくる基準です。(表2参照)
130万円を超えると、国民年金や国民健康保険の保険料を自身で支払う義務が発生するため、手取り収入が減る可能性があることを従業員に理解してもらう必要があります。
また、扶養から外れることにより、家族全体での保険料負担が増加する場合もあります。
この点についても従業員に説明し、年収シミュレーションを提供するなど、企業側が従業員の選択をサポートする姿勢が求められます。
表2
項目 | 130万円の壁 |
---|---|
該当する年収 | 130万円以下 |
対象者 | 主にパートタイム・アルバイトの従業員 |
超えた場合の影響 | 社会保険の扶養から外れ、個人で保険料負担が発生 |
扶養控除 | 扶養から外れることで、家族の保険料負担が増加する可能性 |
106万円の壁との違い
106万円の壁は、勤務先の社会保険の加入対象となる基準の一つです。
ただし、加入要件には「勤務先の従業員数」「雇用期間」「週の所定労働時間」などの条件が含まれるため、年収が106万円を超えたとしても、すべての従業員が社会保険に加入するとは限りません。
具体的には、従業員数が51人以上の企業で働いている場合に該当することが多い基準です。
一方で、130万円の壁は、年収が130万円を超えるとすべての人が社会保険に加入し、自分自身で保険料を負担する必要がある基準です。
このため、106万円の壁が特定の条件下で適用されるのに対し、130万円の壁は普遍的に適用されるラインとして認識されています。
3. 企業側が行う130万円の壁に対する対策
年収が130万円を超えると、社会保険料の支払いが発生し、手取り収入が減るため、パートタイムやアルバイトで働く方が労働時間を調整し、壁を超えないよう勤務時間や出勤日数を調整するケースがよく見られます。
特に人手不足が深刻な状況において、労働時間の調整は企業側にも負担をかける課題となっています。
現在では、繁忙期など一時的に収入が130万円を超えた場合でも、事業主がその理由を証明することで、引き続き扶養に入れる仕組みが存在します。(図1参照)
出典:厚生労働省「パート・アルバイトで働く「130万円の壁」でお困りの皆さまへ(リーフレット)」(PDF)
この制度を活用することで、従業員の負担軽減や企業の労働力確保につながる対応が可能です。
企業としては、制度の活用方法を従業員に正確に伝えるとともに、社会保険加入後のメリットについても説明することが求められます。
配偶者手当見直しと年収の壁対策
企業が支給する配偶者手当は、働き方に影響を与える要因の一つです。
例えば、夫が配偶者手当を受け取るため、妻が収入基準を超えないように働き方を調整するといったケースが挙げられます。
これにより、短時間労働者が就業時間を抑え、労働力不足が深刻化する要因にもなり得ます。
政府は「年収の壁・支援強化パッケージ」を通じて、こうした制約を緩和し、働きたい人がその能力を発揮できる環境づくりを推進しています。
また、厚生労働省で発表されているフローチャート(図2参照)を元に、円滑な賃金制度の見直しを行うことも重要です。
出典:厚生労働省「(A4印刷用)配偶者手当見直し検討のフローチャート」(PDF)
配偶者手当を現状のまま維持するのではなく、従業員の労働参加を後押しする制度に変えていくことは、労働力不足への対応策となるだけでなく、企業の持続的成長にもつながるのです。
4. 企業に求められる対応
「103万円の壁」と「130万円の壁」は、労働者個人だけでなく、企業の労務管理にも大きな影響を及ぼすため、企業側の対応が求められます。
1. 従業員への正確な情報提供
従業員が壁を超えた場合の税金や社会保険料の変化について、分かりやすく説明することが重要です。特に扶養控除の変化や保険料負担が家計に与える影響を丁寧に解説し、適切な選択ができるようサポートしましょう。
2. 収入シミュレーションの提供
年収が壁を超えることでどの程度の負担が発生するのかをシミュレーションし、具体的な数値で示すことが従業員の不安を軽減します。このシミュレーション結果を基に、労働時間や収入の調整を支援できます。
3. 柔軟な就業時間管理
年収が壁を超えないようにするための就業時間管理が必要な場合があります。従業員の希望を確認しつつ、効率的なスケジュール調整を行い、全体の業務に支障をきたさないよう配慮しましょう。
4. 壁を超える選択肢の提案
一部の従業員はあえて壁を超えてフルタイム勤務を選択したい場合もあります。このようなケースでは、社会保険料の負担を見越した給与設定や、キャリアアップの可能性について説明することが求められます。
企業はこれらの対応を通じて、従業員が安心して働ける環境を整備するとともに、適切な管理が必要です。
5. 制度変更や法改正の動向
日本の労働環境は少子高齢化や働き方改革の進展に伴い、頻繁に制度変更や法改正が行われています。特に「103万円の壁」と「130万円の壁」に関連する制度については、以下のような動向が見られます。
1. 扶養控除の見直し
配偶者控除の対象年収が2018年に103万円から150万円に引き上げられました。今後も扶養に関する制度が変更される可能性があります。労務管理上、最新の情報を把握しておくことが重要です。
2. 社会保険適用の拡大
2022年には、社会保険の適用拡大により、106万円以上の年収で社会保険加入が必要な対象者が増加しました。(図3参照)130万円の壁に関してもさらなる改正が予測されるため、労務担当者は制度改正に備える必要があります。
出典:厚生労働省「『年収の壁について知ろう』あなたにベストな働き方とは?」(PDF)
3. 働き方改革関連法の影響
働き方改革により、短時間勤務者の待遇改善が進んでおり、これが所得税や社会保険料の負担ラインにも影響を与えています。法改正による収入ラインの変化が業務運営に及ぼす影響を考慮し、長期的な対応策を検討することが求められます。
4. 企業への義務化要件の追加
将来的に労務管理における義務が増える可能性もあります。例えば、収入シミュレーションの提供義務や労働者への説明責任など、新たなルールに対応できる体制を整えておくことが重要です。
最新の動向を常にチェックし、従業員に安心感を与える対応を行うことで、企業としての信頼性を向上させることが可能です。
まとめ
以上、「103万円の壁」と「130万円の壁」に関する基礎知識や労務管理上の対応策、そして今後の制度変更の動向について解説しました。
年収基準は、労働者の所得だけでなく、労働者家族全体の家計に大きな影響を与えるため、企業側のサポートが重要です。
また、制度改正が進む中で最新情報を把握し、従業員に適切な説明とサポートを提供することは、労働者が働きやすい環境を整えるために不可欠な企業の責任と言えます。
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