2024年から住民税の「特別徴収税額通知」の電子化が本格的に始まりました。
これまで紙で受け取っていた各自治体からの通知を、電子で受け取ることで業務の効率化やセキュリティ向上が期待されていました。
しかし電子化における複雑な仕組みを理解するにつれて、作業が削減につながるようには思えず、電子化への切り替えをためらう企業が少なくありません。
なぜ、電子化が進まないのか。本当に効率化に寄与しているのか――その実態と課題を、現場目線で考えてみたいと思います。
1. 背景:従来の特別徴収税額通知の対応
例年、企業は1月末までにすべての従業員の給与支払報告書を、それぞれの居住自治体に提出します。その後、6月ごろになると、住民税の「特別徴収税額通知」が各自治体から届きます。
これらは紙で届くため、人事・労務担当者は従業員ごとに仕分け・封入し、社内で配布もしくは郵送する必要がありました。
扱うのはマイナンバーや住民税額などの個人情報。封筒の誤封入や紛失などのリスクを避けるため、毎年細心の注意と手間をかけて対応してきた企業が多いのではないでしょうか。
2. 電子化導入の現状と課題
こうしたアナログな作業負担を軽減するため、電子化が導入されました。(図1)
図1
出典:大阪市_特別徴収税額通知の電子化について_「受け取り方法変更のお知らせリーフレット_PDF」
理論上は、紙のやり取りが不要となり、よりスピーディかつセキュアな運用が可能になるはずでした。
しかし、現場では想定外の課題も浮かび上がっています。
まず、電子で特別徴収税額通知を受け取った後も、従業員ごとに通知を配布する必要があります。
その際、各通知には「受給者番号」が用いられており、該当する従業員を特定しなければなりません。
加えて、パスワードが別途送付される形式のため、受信した通知ファイルと照らし合わせて送付しなければならず、確認作業に時間と手間がかかります。(図2)
図2
出典:大阪市_特別徴収税額通知の電子化について_「受け取り方法変更のお知らせリーフレット_PDF」
さらに問題となっているのが、通知ファイルの解凍形式です。
通常のZIPファイルではなく、暗号化された特殊な形式で配布されるため、専用の解凍ソフトが必要です。
この専用の解凍ソフトは人事部門だけでなく、従業員一人ひとりが導入して操作する必要があり、全社的なサポート体制も求められます。
3. 電子化が進まない理由
電子化されたとはいえ、「人手が減った」「業務が簡素化された」と実感できるケースはまだ限られています。
むしろ、従来の紙対応よりも操作や確認が複雑になり、余計な問い合わせやミスが増えてしまうケースも見られます。
従業員に専用の解凍ソフト導入の手順を案内したり、操作に関する質問対応に追われたりと、人事担当者の負担が新たなかたちで発生しているのが実情です。
従業員ごとにITリテラシーの差があるため、すべての人に対して一律に電子化を進めることが難しく、そのことが電子化の妨げとなっています。
4. 今後求められる解決策
電子化そのものが悪いわけではありません。
むしろ、制度としての方向性は間違っておらず、うまく活用できれば大きなメリットがあります。
問題は「電子化すること」自体ではなく、「誰もが無理なく使える」仕組みになっているかどうかです。
特定のソリューションを用いて、スマートフォンに直接通知を送信できる仕組みを活用したり、専用の解凍ソフトを必要としない環境での運用といった利便性の高い事例も登場しています。
しかし、そうした環境がすべての企業・自治体で標準化されているわけではなく、導入のハードルも残っています。
電子化を推進するには、まずは使いやすさを前提とした最適なソリューションの導入や運用体制の整備が不可欠です。
まとめ
特別徴収税額通知の電子化は、紙運用に伴う煩雑さや情報漏洩リスクを減らす可能性を秘めています。
しかし、現在標準的に提供されている電子化の仕組みは、使い勝手や運用負荷の面で十分とは言えません。
制度設計だけでなく、それを実現するための「現場に寄り添った最適なソリューションと支援体制」があってこそ、本当の意味での業務効率化が実現します。
今後、企業が安心して電子化に踏み出せる環境整備が進むことを期待したいところです。
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