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2024年11月 年収の壁について厚労省議論の方向性
「106万円の壁」「130万円の壁」はどうなる?

公開日:2024年12月19日

2025年度の税制改正で「年収103万円の壁」が引き上げられる方向性で議論が進められています。「103万の壁」は「税」の問題ですが、同時に社会保険の「106万円の壁」、「130万円の壁」についても改正に向けて厚生労働省の社会保障審議会で議論がされています

衆議院議員選挙の結果を受けて厚労省の議論が始まったわけではありません。2024年が5年ごとの財政検証実施の年であり、財政検証にもとづき、2025年にどのように年金制度を改正していくかについて、実は2024年7月3日より議論されてきました。改正案が公表されていますので、今後の「106万円の壁」「130万円の壁」がどのように改正されていくのか、その方向性について見ていきましょう。

1. 5年ごとの改正が実施されている理由

公的年金制度は長期的な制度であるため、社会・経済の変化を踏まえ、適切な年金数理に基づいて、長期的な年金財政の健全性を定期的に検証することで、公的年金の財政運営をするために必要不可欠とされています。

そのため、厚生年金保険法及び国民年金法の規定により、少なくとも5年ごとに、国民年金及び厚生年金の財政の現況及び見通しの作成、いわゆる財政検証が実施されてきました。

2. 「年収の壁」とは

そもそも「年収の壁」と言われているものは、年収によって税・社会保険料の納付義務に違いがあり、基準となる年収を超えるか超えないかで、本人の手取額や、世帯での手取額に差異がおきる制度になっていることから生じています。基準を超えないように年末になると就業調整をする短時間労働者がおり、人材の確保に苦慮している事業者も多く、労使双方にとって大きな問題となっています。

主な「年収の壁」を整理すると、図1のようになります。

図1
短時間労働者が意識する可能性のある「年収の壁」

出典:厚生労働省「第20回社会保障審議会年金部会 参考資料」(PDF)【p.21】

なお、103万円と130万円の壁については以下の記事もあわせてご参照ください。

3. なぜ社会保険の「年収の壁」ができてしまったのか

国民皆保険・国民皆年金を実現するための制度設計をした当時の日本の家族モデルは、「働く夫と専業主婦の妻とその子供たち」でした。その後、経済や社会情勢の変化により、共働き世帯が増加し、制度設計当時の家族モデルではなくなり、制度を変えていかなければならない状況になったことは必然です。

専業主婦(夫)については、配偶者が社会保険に加入していれば、自身で社会保険料を納めなくても、健康保険・国民年金の給付を受けることができます(1985年の制度改正)。婚姻していた時期の年金の納付については、夫婦で納付したものと考え、離婚時には分割するという改正が2004年に行われましたが、その後、女性の就業率がますます増加したこと、労働力人口の減少社会での就業調整が問題となったことで、社会保険の「年収の壁」について制度改正の必要性がさらに増してきました

4. 2025年改正への議論

2024年11月15日に開催された社会保障審議会年金部会では、「被用者保険の適用拡大及び第3号被保険者制度を念頭に置いたいわゆる「年収の壁」への対応について」が議題とされ、2024年7月から話し合われてきたことをもとに、厚労省が改正案を提示しました。

厚労省は、「年収の壁」の概要とポイントについて、図2のように整理しています。

図2
いわゆる「年収の壁」の概要とポイント

出典:厚生労働省「第20回社会保障審議会年金部会 参考資料」(PDF)【p.22】

図2のうち、社会保険の壁は「106万円」と「130万円」であり、課題は「社会保険の適用拡大」と「年金の第3号被保険者への対応」の2点です。

社会保険の「年収の壁」については、手取り収入が減少しないよう就業調整をする方々への対応案のひとつとして、健康保険のように保険料負担の割合を労使折半ではなく、事業主負担を多くする変更ができるしくみを厚生年金でも取り入れる特例案も検討されています。

5. 「106万円の壁」社会保険の適用拡大の方向性

「106万円の壁」は、社会保険の適用拡大によりできた「壁」であり、同じ時間で働いている短時間社員でも、勤めている企業規模により、社会保険の被保険者となる方とそうでない方がいます。

「106万円の壁」で被保険者となる方は、企業単位で社会保険の被保険者が50人を超えている企業で就業している以下の4つの要件のすべてに該当する方です。

① 労働時間要件 …… 週20時間以上
② 賃金要件   …… 月8.8万円以上
③ 勤務期間要件 …… 2か月超の雇用
④ 学生ではないこと

上記のうち、賃金要件に関しては、週20時間以上の勤務であれば、時給1,016円を超えれば月収入が8.8万円以上となり、年収106万円以上となります。最低賃金が1,016円を超えている都道府県は、2024年10月で12あり、最低賃金が年々上昇していく中、労働時間要件と賃金要件については、改正しなくても近いうちに解消されるため、見直さなくてもよいのではというのが厚労省から示されました。

一方、労使双方の委員から、雇用形態、勤務先の企業規模や業種によって社会保険適用の有無があるのは不合理であり、適用拡大は進めていくべきであるという意見が大勢を占めていることから、企業規模要件については事業者の保険料負担や事務負担を考慮し、2025年改正ではさらなる適用拡大は盛り込まれない見込みですが、もともと経過措置でもあり、いずれは撤廃されていくことになるでしょう。

6. 「130万円の壁」年金の第3号被保険者への対応

第3号被保険者は、社会保険に加入している被保険者(第2号)の配偶者であれば、ご自身は社会保険の保険料の納付をしなくとも(第2号被保険者とともに基礎年金部分を納付していることと扱われる)、将来、老齢基礎年金を受給できるしくみとなっています。ただし、受給できるのは基礎年金部分のみのため、高齢女性の低所得の問題につながっているとの指摘もあり、社会保険の適用拡大を進めていくことで、第3号制度の縮小・見直しに向けたステップを踏んでいく方向性で厚労省案が示されました。

第3号被保険者は現在およそ675万人で、その同数の第2号被保険者(配偶者)がいることになり、制度変更によって1,400万人弱の方に影響が及ぶことになるため、経過措置等のステップが必要とされています。

また、育児や介護、病気等の事情によって労働時間の制約を受け、低収入となっているような支援の必要な方について特例を設ける等の検討も必要とされました。

まとめ

以上、社会保険の「年収の壁」について、2025年改正に向けた議論の方向性をまとめました。

2025年で大きな制度改正はなさそうですが、負担と受給の公平性という点から、制度改正が進んでいくことは間違いありません。

本コラムの著者

北條 孝枝

北條 孝枝(ほうじょう たかえ)

株式会社ブレインコンサルティングオフィス株式会社ブレインコンサルティングオフィス
社会保険労務士 メンタルヘルス法務主任者

会計事務所で長年に渡り、給与計算・年末調整業務に従事。また、社会保険労務士として数多くの企業の労務管理に携わる。情報セキュリティについての造詣も深く、実務担当者の目線で、企業の給与、人事労務担当者へのアドバイスや、業務効率化のコンサル等に取り組むとともに、実務に即した法改正情報、働き方改革などの企業対応に関する講演も多数行っている。

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