6月は、住民税の新年度分の通知が届くタイミングであり、給与計算業務においても注意が必要な時期です。
中でも、「住民税の普通徴収から特別徴収への切り替え」を検討している企業にとって、今はまさに手続きを見直す好機です。
本記事では、特別徴収の基本から切り替えの実務、注意点までを人事・労務担当者向けにわかりやすく解説します。
目次
1. 特別徴収とは?普通徴収との違い
住民税の納付方法には「特別徴収」と「普通徴収」の2つがあります。両者の大きな違いは、誰が納付を行うかという点です。
特別徴収:給与から天引きし、会社が納付
特別徴収は、会社などの事業者が従業員の給与から住民税を天引きし、従業員本人に代わって各自治体に納付する制度です。
地方税法により、所得税の源泉徴収義務がある事業者には、個人住民税も特別徴収する義務があります。
つまり、対象となる従業員がいる限り、企業側の都合や従業員の希望で勝手に普通徴収へ切り替えることは認められていません(※一部の例外については後述します)。
対象となるのは、給与所得がある従業員です。企業が従業員の給与支払いを行っている場合は、原則として全員を特別徴収の対象としなければなりません。
普通徴収:納税者が自分で納付
一方、普通徴収は、納税義務者本人が市区町村から送付される納税通知書に基づき、自ら金融機関やコンビニなどで住民税を納付する方法です。
この方法は主に、給与所得がない人、たとえば自営業者、フリーランス、一部アルバイトの人などが対象です。
また、退職などで給与支払いが途絶えた元従業員も、年度途中から普通徴収に切り替わる場合があります。
住民税は前年の所得に基づいて課税されるため、現在収入がなくても前年に一定の収入があれば納税義務が発生します。納付方法としては、年4回の分割納付または一括納付が選択できます。
2. 特別徴収のメリット・デメリットとは?企業・従業員双方にとっての利点
住民税の徴収方法として「特別徴収」が原則とされていますが、制度上の意義だけでなく、企業・従業員の双方にとって実務上のメリットがある制度でもあります。
事業主(企業)側のメリット
- 税額の計算や年末調整は不要
特別徴収では、市区町村から届く「特別徴収税額通知書」に従って住民税を天引きするだけで良く、所得税のように会社側で税額計算や年末調整を行う必要はありません。 - 電子申告・電子納付が可能
住民税の特別徴収に関する手続きは、オンラインで簡単に申告ができ、納付についてもインターネットバンキングやATM等を利用すれば、窓口に行く必要がありません。 - 納期の特例で納付回数を減らせる
従業員が常時10人未満の小規模事業所であれば、自治体の承認を受けることで、年12回の納付を年2回にまとめる「納期の特例制度」を利用できます。納付業務の負担軽減につながります。
従業員側のメリット
- 納め忘れの心配がない
毎月の給与から自動的に住民税が控除されるため、自ら納付手続きを行う必要がなく、納め忘れのリスクがありません。 - 金融機関等への出向き不要
納付のために銀行や市役所の窓口に出向く必要がなく、手間や時間の負担が軽減されます。 - 1回あたりの負担が軽減される
年額の住民税を12カ月に分割して支払うため、普通徴収(年4回払い)よりも1回あたりの支払金額が小さくなり、家計の負担も分散されます。
特別徴収は、事業主・従業員双方にとって実務上のメリットが大きいです。
特に、給与天引きによる納付の確実性や、納付忘れの防止といった利点は大きな魅力です。
導入・切り替えにあたっては、自治体の案内を確認し、スムーズな対応ができる体制を整えましょう。
注意点
- 初回の手続き負担がある
特別徴収を導入・切り替えする際は、届出書の提出や税額通知の確認など、初期的な手続きが必要です。ただし、自治体ごとに様式や提出期限が異なるため、事前確認が重要です。 - 給与担当者による適切な管理が必要
従業員の入退社・転居・異動等がある場合は、速やかに変更届の提出が必要となります。住民税の天引き額に影響するため、給与担当者による情報管理が不可欠です。
3. 普通徴収から特別徴収へ切り替えるには?
すでに普通徴収で対応していた従業員について、改めて特別徴収へ切り替えたいというケースもあるでしょう。
特に6月は、各自治体から新年度の「特別徴収税額通知書」が届く時期であり、切り替え手続きを進めるには適したタイミングです。
切り替えの流れ(一般的な手続き)
- 対象者の洗い出し
- 現在普通徴収で住民税を納めている従業員のリストを確認
- 本来特別徴収すべき該当者が含まれていないかチェック
- 「特別徴収切替届出書」の提出
- 該当する市区町村に対して、「普通徴収から特別徴収への切替届出(依頼)書」を提出
- 様式や提出期限は自治体により異なります(多くは6月中~7月上旬)
- 特別徴収の開始
- 届出内容が承認されれば、翌月以降の給与から住民税を天引きして納付する形に切り替わる
- 通常、7月または8月支給分の給与から天引きスタートになることが多い
ポイント:
切り替えを円滑に行うためには、従業員の住民税納付状況と人事給与情報を照らし合わせ、情報に食い違いがないか事前確認をしておきましょう。
4. 入社・退職時における特別徴収の手続き対応
従業員の入社や退職など、人事異動が発生した際には、住民税の特別徴収にも一定の対応が求められます。ここでは、新入社員の受け入れ時と、従業員の退職時に分けて、具体的な手続きを解説します。
新入社員が入社した場合
新入社員の住民税特別徴収の有無は、「前年に課税対象となる所得があったかどうか」で判断されます。
【1】前年に所得がない新卒・未就労者の場合
住民税は、前年の所得に基づいて翌年度に課税されます。そのため、入社時点で前年に収入がなかった新卒社員や未就労者の場合、住民税は発生しません。
このケースでは、入社初年度に特別徴収の手続きは不要です。
ただし、翌年以降は課税対象になる可能性があるため、翌年1月末までに給与支払報告書の提出を忘れないようにしましょう。
給与支払報告書の提出により、入社2年目から特別徴収が開始されます。
【2】前年に所得がある中途入社社員の場合
中途入社の社員で、前年に課税対象となる所得があった場合は、住民税がすでに課税されており、通常は普通徴収として納付している状態です。
このような場合は、入社後にその従業員の住民税を給与から天引きするために、以下のような対応が必要です。
- 「特別徴収切替届出書(依頼書)」を、従業員の居住地の市区町村に提出
- 転職者の場合、前職から「給与所得者異動届出書」が市区町村に提出されていれば、その情報をもとに「転勤」扱いとして特別徴収が引き継がれるケースもあります。
いずれにしても、早期に届出を行うことで、スムーズな特別徴収への切り替えが可能です。
従業員が退職・転職・休職・死亡した場合
従業員が退職や休職、あるいは死亡した場合には、住民税の特別徴収を継続することができなくなります。
その場合は、異動後の翌月10日までに、「給与所得者異動届出書」の提出が必要です。
- 転職先が未定の場合 →「普通徴収へ切り替え」の旨を届出書に記載
- 転職先が決まっている場合 →自治体が同一または引き継ぎ処理を認めている場合に限り、転勤扱いでの継続が可能(前職側が手続き)
また、退職時期によっては、残りの住民税を一括で徴収すべきか、普通徴収へ切り替えるかという判断が必要になります。(表1)
表1
退職時期 | 住民税の対応方法 |
---|---|
1月~4月 | 原則として、未徴収分を一括で徴収(最終給与から) |
5月 | 原則として、通常通り特別徴収での対応が可能 |
6月~12月 | 原則として、翌月以降は普通徴収または本人希望による一括徴収 |
退職直前の給与で一括徴収できない場合や、金額が大きくなりすぎるケースでは、従業員本人と相談のうえ、普通徴収へ切り替える選択も視野に入れる必要があります。
このように、住民税の特別徴収に関する手続きは、入退社のタイミングや前年の所得状況に応じて対応が異なります。担当者は、給与支払報告書の提出や届出書の期限をしっかり把握し、自治体との連携をスムーズに行うことが求められます。
退職時の雇用保険喪失手続き(離職票)については以下の記事もあわせてご参照ください。
まとめ
本記事では、特別徴収の基礎知識から、普通徴収からの切り替え方法について解説しました。
住民税の特別徴収は、企業が従業員に代わって納付を行う重要な仕組みです。
法令上、原則として全従業員を対象に特別徴収を行うことが義務づけられており、人事・労務担当者はその内容と実務対応を正しく理解しておく必要があります。
特別徴収の制度は、従業員にとっても企業にとっても利便性の高い仕組みです。制度の仕組みと手続きのタイミングを理解し、正確な情報管理と自治体への対応を行うことで、スムーズかつ適切な運用が可能になります。
年に一度の住民税更新のタイミングにあわせて、自社の体制や手続きを見直してみてはいかがでしょうか。
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