近年、外国人社員の雇用が一般化しています。
それに伴い、退職時の手続きを正しく行う重要性も高まっています。
日本人と異なる手続きが必要な場合があり、ミスを防ぐためには事前準備が不可欠です。
本コラムでは、企業側と退職者側に分けて、押さえておくべき退職手続きを解説します。
目次
1. 【企業側】外国人の退職手続き一覧
外国人社員の退職時には、通常の退職手続きに加えて、在留資格や行政への特別な対応が必要です。
この手続きを怠ると、最悪の場合、在留資格が取り消される可能性があるため、期限内に確実に届け出るよう注意しましょう。
雇用保険・社会保険の資格喪失手続き
外国人社員が雇用保険や社会保険に加入していた場合、退職に伴い以下の手続きが必要です。
- 雇用保険喪失手続き
退職日の翌日から10日以内に、所轄のハローワークへ「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出します。 この手続きは、雇用保険の被保険者であった場合に必要です。
また、離職票の発行を希望する場合は、退職者からの申出を受け、同時に「離職証明書」を作成・提出します。 - 健康保険・厚生年金保険資格喪失届の提出
退職日の翌日から5日以内に、所轄の年金事務所へ「健康保険・厚生年金保険資格喪失届」を提出します。
保険証は退職者から回収し、適切に処理してください。
なお、近年ではマイナンバーカードや健康保険証確認書類など、保険証の形式が多様化しているため、各種形式に応じた対応が求められます。
※日本人社員と同様ですが、外国人の場合も忘れず対応しましょう。
雇用保険や社会保険の資格喪失に関する手続きについては、以下の記事もあわせてご参照ください。
源泉徴収票交付
退職後、速やかに源泉徴収票を作成し、退職者へ交付します。
源泉徴収票は、転職先での年末調整や確定申告に必要な書類です。
企業には源泉徴収票の交付義務があり、退職後1か月以内に交付することが望ましいとされています。
源泉徴収票と確定申告に関する対応については、以下の記事もあわせてご参照ください。
住民税の未納処理
住民税は前年の所得に基づき課税されており、基本的に翌年に支払いが続きます。
- 一括徴収または普通徴収への切り替え
退職時点で未納分がある場合、最終給与で一括徴収するか、普通徴収に切り替えて退職者に納税を委ねる手続きが必要です。
- 説明義務
普通徴収に切り替える場合は、退職者に「自治体から送付される納付書で支払う必要がある」ことを必ず説明します。
在留カード番号記載の外国人雇用状況届出
外国人雇用対策法により、外国人社員の退職時には雇用状況届出が義務付けられています。
- 提出先と期限
ハローワークへ、退職後14日以内に「外国人雇用状況届出書」を提出します。
- 記載内容
氏名、生年月日、性別、国籍、在留資格、在留カード番号、退職理由、退職日など。特に在留カード番号の記載漏れに注意が必要です。
退職証明書の発行
退職者から求められた場合、退職証明書を発行する義務があります。
特に外国人社員が本国へ帰国せず、日本国内で転職・就労継続を希望する場合、出入国在留管理庁への在留資格変更・更新手続きにおいて、退職証明書の提出が求められることがあります。企業側はその重要性を認識しておく必要があります。
記載事項例
雇用期間、業務内容、地位、賃金、退職理由など。
なお、退職者の希望により、記載内容の一部を省略・調整することも可能です(例:退職理由を明記しないなど)。
速やかな対応が求められる理由
発行の遅れは、退職者の転職活動や在留資格変更手続きに支障をきたすおそれがあります。
とくに在留資格の期限が迫っている場合には、提出書類が揃わないことで更新申請ができず、在留資格失効のリスクもあります。
退職証明書の発行遅れのない体制を整えておくことが重要です。
2. 【退職者側】外国人社員が行うべき手続き
外国人社員が日本企業を退職する際には、日本人社員と同様の手続きに加えて、在留資格や帰国準備に関する独自の対応も必要です。
以下、退職時に本人が行うべき主な手続きを解説します。
離職票と源泉徴収票の受け取り
- 離職票
雇用保険の被保険者であった場合、失業給付を受けるには離職票が必要です。
離職票の発行には、退職時に会社へ申請の意思を伝える必要があります。
会社は、退職者の申出に基づき、ハローワークへ離職証明書を提出し、離職票の発行手続きを行います。 - 源泉徴収票
源泉徴収票は、転職先での年末調整や翌年の確定申告に必要な書類です。企業には源泉徴収票の交付義務があり、退職後1か月以内に交付されることが望ましいとされています。
雇用保険の手続きと失業給付の申請
雇用保険に加入していた外国人社員は、退職後にハローワークで失業給付の申請が可能です。ただし、そのためには「離職票」の発行・提出が必須となります。
企業は退職時に速やかに離職票を発行し、退職者へ交付する必要があります。
- 申請条件
失業給付を受けるには、以下の条件を満たす必要があります:- 引き続き日本国内での就職活動を行う意思があること
- 在留資格が就労活動を許可していること(例:特定活動、定住者、日本人の配偶者等 など)
※「留学」や「家族滞在」などの在留資格では、基本的に受給できません。
- 必要書類
離職票(企業発行)- 在留カード
- 雇用保険被保険者証
- 本人確認書類(マイナンバーカードや運転免許証など)
- 手続きの流れ
- ハローワークでの求職申込み
- 離職票などの必要書類を提出
- 失業の認定
- その後も定期的にハローワークへ出向き、求職活動を報告する必要あり
スケジュールや出頭日を守らないと、給付が受けられなくなる場合があるため、退職者への丁寧な案内と、企業側の正確な書類作成・交付が重要です。
健康保険の切り替え手続き
退職により会社の健康保険資格を喪失するため、以下のいずれかの方法で健康保険の継続を検討する必要があります。
- 任意継続被保険者制度
退職前日までに継続して2か月以上の被保険者期間がある場合、退職後20日以内に申請することで、最長2年間、会社の健康保険を継続できます。
- 国民健康保険への加入
市区町村の窓口で手続きを行い、国民健康保険に加入します。
- 配偶者の扶養に入る
配偶者が被保険者である場合、扶養条件を満たせば、その扶養に入ることが可能です。
脱退一時金の請求
外国人が帰国する場合、日本で6か月以上年金に加入していたにもかかわらず受給資格を満たしていない場合、脱退一時金を受け取れる可能性があります。
この請求は帰国後2年以内に行う必要があり、支給額は納付期間に応じて決まります。
手続きには脱退一時金請求書が必要となるため、帰国前に日本年金機構から取り寄せておくと安心です。
ただし、一時金を受け取ると、その期間の年金加入記録が消失するため、請求は慎重に判断するようアドバイスしましょう。
3. 特定技能外国人の場合の留意点
近年では、介護や外食、建設などの分野を中心に「特定技能」の在留資格を持つ外国人の雇用も増えています。
特定技能の在留資格を有する方が退職する場合には、通常の手続きに加えて、出入国在留管理庁への届出などが必要になります。
たとえば、受け入れ企業は、退職後14日以内に「受入れ困難に係る届出」を出入国在留管理庁へ提出しなければなりません。
また、外国人退職者本人にも同様の届出義務が課されています。
これらの手続きを怠ると、在留資格の継続や更新に支障が出る可能性があります。
さらに、特定技能の在留資格は「特定の業種・企業との雇用契約」を前提とするため、退職後にすぐ次の受け入れ先が決まらない場合、日本に滞在できる期間に制限がある点にも注意しなければなりません。
企業としては、退職者の状況を把握し、必要に応じて登録支援機関と連携して対応することが望まれます。
外国人労働者雇用時の受入企業側の対応については、以下の記事もあわせてご参照ください。
4. 実務担当者がとるべき対応策
外国人社員の退職の際は、手続きの漏れのないよう対応し、トラブルを未然に防ぎましょう。
関係する各種手続きの「期限を厳守すること」は重要です。
企業側は社会保険や税務に関する届出、退職者側は出入国在留管理局への所属機関変更の届け出など、期限付きの義務があります。これらを怠ると、処罰や資格取消しといった問題に発展する可能性があるため、余裕を持って準備・確認を進める必要があります。
また、退職によって「在留資格が失効するリスク」に対する配慮も求められます。
外国人は就労活動を前提に在留資格を得ていることが多く、退職後に職を失ったまま長期間経過すると、資格の取消し対象となる可能性があります。
転職希望がある場合は速やかな就職活動が求められ、必要に応じて「特定活動」などへの資格変更を案内することも企業側の責任の一部といえるでしょう。
さらに、制度や手続きに不慣れな外国人社員に対しては、「丁寧な説明とサポート」を心がけることが大切です。
退職時の書類、保険・年金制度、ビザ関連の届け出など、専門用語も多く理解が難しい場面も少なくありません。わかりやすく説明を行い、安心して手続きを進められるよう寄り添うことで、退職者の不安軽減につながります。
まとめ
以上、外国人社員の退職に伴う企業側・退職者側の手続きと実務担当者の対応策について解説しました。
外国人退職時は、社会保険・税務・雇用状況届出に加え、在留資格に関する注意点も多く、手続き漏れがトラブルの原因となりかねません。
期限厳守と丁寧なサポートを徹底し、退職者が安心して次のステップに進めるよう支援することが、企業の信頼にもつながります。
「Charlotte(シャーロット)」とは?
「Charlotte」は、人事給与システムのデータを活かし、幅広い電子申請(146手続き)に対応。26の人事給与系システムとの連携実績があり、複数のソフトを介さず1つのシステムで行えるSaaS型クラウドサービスです。
●社会保険、雇用保険、労働保険の電子申請 ●36協定や就業規則変更などの労使手続き ●健康保険組合に向けた手続き ●労務担当者が対応する税申告「e-Tax」「eLTAX」に関する申告
さらにオプションとの組み合わせで公文書や離職票、支払い決定通知書を従業員に自動で届けるサービスなど、労務DXの実現により労務ご担当者様の業務負担を軽減します。