プロが教える! 電子申請導入のポイント
第53回
賃金のデジタル払いが可能に。
指定資金移動業者が指定されたことにより、実運用が開始
- #デジタル払い
- #労働基準法
- #キャッシュレス
2023年4月より、一定の要件のもと、賃金のデジタル払いが法令上で認める法令が施行されました。その後、資金移動業者が厚労省に申請し、厚労省では審査がされてきました。2024年8月9日に指定資金移動業者が指定されたことにより、企業が指定資金移動業者と契約し、労働者が同意した場合には、賃金をデジタル払いする運用が可能になりました。
今回は、改正の背景、デジタル払いにあたり企業が対応すべきこと、導入への課題について解説します。
1. 改正の背景
労働基準法では、賃金は現金払いを原則とし、労働者が同意した場合のみ、銀行口座等への振り込みが認められてきましたが、キャッシュレス決済の普及や送金手段の多様化に対応し、新たな選択肢として、資金移動業者(○○Pay等)への賃金支払いを可能とすることになりました。
デジタル払いを可能とするために、厚労省の労働政策審議会労働条件分科会で、以下のような論点で審議がされました。
① 資金移動業者(審議当時80程度)と銀行口座との比較
安全性、保全、補償、スピード
② 不正引き出しへの対応
③ 換金性
④ 制度化のニーズ
⑤ 企業実務の観点
労働行政が資金移動業者にどこまで監督指導できるか
金融庁管轄部分に労働条件分科会の意見が反映されるか
個人情報保護(セキュリティ、マネロン等)のレベル
振込の実務、本人同意 、滞留規制
このような論点を審議の上、セキュリティや不正取引や破綻した場合の弁済等について基準を満たす資金移動業者の指定がされ、さらに、上限額等の条件が定められました。
改正内容のポイント
- 事前の労使協定が必須
- 指定資金移動業者の口座は「預金」ではなく「支払や送金」のためのものであることから、賃金として受け取れる額は、1日当たりの払い出し上限額以下とする
- 指定資金移動業者の口座の上限額は100万円以下のため、賃金をデジタルしたことにより、口座の残高が100万円を超えた場合は、あらかじめ労働者が指定した銀行口座(代替口座)に指定資金移動業者が自動的に出金する仕組みとする
- 月に1回は資金移動業者の口座から労働者が手数料の負担なく、1円単位で現金化(払い出し)を可能とする
- 資金移動業者の口座残高の払い戻し期限は、最後の入出金から少なくとも10年間とする
2. デジタル払いにあたり企業がしなければならないこと
賃金のデジタル払いをするためには、以下の要件を満たすことが必要です。
- 賃金をデジタル払いすることについて、事前に労使協定を締結すること
- 労使協定を締結した上で、会社は労働者に内容を説明し、希望者から個別に同意を得ること
- 賃金をデジタル払いする口座は、指定資金移動業者に限ること
制度の導入にあたり、会社がしておかなければならないことについて、2022年(令和4年)11月28日に厚労省から通達が発出されています。主な内容は、図1のとおりです。(図1参照)
図1
デジタル払いできる金額は、労働者が希望した金額となりますが、指定資金移動業者によって、100万円以下の上限額を定めることが可能となっています。取扱の契約を締結する指定資金移動業者のサービスの内容をしっかり確認した上で、労働者に説明することが必要です。
また、厚生労働省のウェブサイトには、周知用のリーフレットや、事業者へのQ&A、労働者からの同意書の様式例等が日本語・多言語翻訳版で掲載されていますので、確認しておきましょう。
【参考】厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」
3. 導入への課題
賃金をデジタル払いすることにより、労働者にとっては、スマホやパソコンを使って、時間や場所にとらわれず、賃金を利用することが可能になるという利点があるものの、企業としてはクリアしなければならない課題があります。
- 給与システム等から指定資金業者の口座への振込データの構築
- 振込データの作成が銀行口座と指定資金移動業者と複数に分かれることへの対応
(振込データの作成、支払履歴の管理、指定資金移動業者への資金の移動) - 給与明細書への表示への対応
指定資金移動業者が指定されたことで、賃金のデジタル払いの実運用が開始されますが、導入するかは、決められた期日に全額を支払わなければならない賃金になりますので、自社の労働者のニーズや、実務面での課題がクリアされるかをしっかり確認した上で導入していきましょう。