障害者雇用は、企業の社会的責任の一環であり、より多様な人材を活かすための重要な取り組みです。
日本では、障害者雇用促進法に基づき、一定規模以上の企業に障害者の雇用が義務付けられています。
しかし、業種や業務内容によっては障害者雇用が難しいとされることもあり、障害者雇用除外率という制度が設けられています。
2026年4月から、この除外率が引き下げられることが決定しました。
今回は、除外率引き下げの背景と、それに伴う企業の対応について解説します。
目次
1. 障害者雇用の法的義務と除外率とは?
企業には、障害のある人が働きやすい環境を整え、積極的に雇用を促進する義務があります。
日本では「障害者雇用促進法」に基づき、従業員40人以上の企業は、全従業員のうち2.5%以上を障害者として雇用することが義務付けられています(2024年4月時点)。
しかし、すべての業務において障害者雇用が同じ条件で求められるわけではありません。
一部の業務では、障害者の就業が難しいと考えられる場合があり、その負担を軽減するために「障害者雇用除外率」という制度が設けられています。
除外率が適用される業種では、一定割合の業務について法定雇用率の算定対象から除外されるため、企業の実質的な障害者雇用義務が軽減される仕組みです。
近年は障害者雇用のさらなる促進を目的に、この除外率の引き下げが進んでいます。
2024年4月以降、特定の業種では適用される除外率が引き下げられ、企業の負担が増加することが予想されています。
2. 障害者雇用除外率の引き下げの背景と流れ
政府は、障害者の雇用機会を増やし、働きやすい環境を整備するために、法定雇用率の引き上げ(図1)と除外率の引き下げを段階的に進めています。
この動きは、企業に対して障害者の積極的な雇用と合理的配慮の提供を求めるものです。
出典:厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」(PDF)
従来、業務の性質上「障害者の雇用が難しい」とされてきた業種においても、近年の技術進歩や職場環境の変化により、合理的配慮を講じることで障害者の雇用が可能と判断されました。
そのため、2024年4月より、特定の業種を対象に段階的な除外率の引き下げが始まりました。
例えば、これまで障害者の配置が難しいとされてきた工場や運輸業などの業種では、職務の分業化や作業工程の見直しが進み、一部業務において障害者が従事できる環境が整いつつあります。
また、ITの発展により、リモートワークやアシストツールの活用が進み、従来よりも多様な働き方が可能になったことも、除外率引き下げの背景にあります。
2026年4月には、さらに多くの業種で除外率の引き下げが実施される予定です。
除外率の引き下げにより、企業は現在の雇用計画を見直し、障害者の雇用促進に向けた準備を進める必要があります。
3. 2026年4月からの除外率引き下げ
2025年4月1日(令和7年4月)から、各業種に設定されている除外率が一律10ポイント引き下げられます。(図2)
出典:厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」(PDF)
これにより、例えば現在20%の除外率が適用されている業種では、10%に引き下げられることになります。
また、現在の除外率が10%以下の業種については、除外率制度の対象外となるため、完全に適用がなくなるケースも出てくるでしょう。
4. 除外率引き下げが企業に与える影響
2024年4月からの除外率引き下げにより、企業の障害者雇用に対する義務は実質的に増加します。
特に、2026年4月にはさらに引き下げが予定されており、多くの企業で具体的な対応が求められます。
雇用義務の増加
除外率が引き下げられることで、企業が実際に雇用しなければならない障害者の人数が増加します。
例えば、これまで除外率が適用されていた業種でも、引き下げ後はより多くの障害者を雇う必要が生じます。
- 影響を受ける業種:製造業、運輸業、建設業など、従来は除外率が高く設定されていた業界
- 法定雇用率2.5%の達成がより困難になり、計画的な採用が必要になる
採用・職場環境整備の必要性
企業が雇用義務を果たすためには、業務内容の見直しや職場環境の整備が欠かせません。
- 業務の切り分け:障害者が対応できる業務を明確にし、職務設計を再検討
- 職場のバリアフリー化:物理的な環境整備(エレベーター、スロープ設置など)や、ICTツールの活用による業務支援
- 従業員の意識改革:障害者雇用に関する研修を実施し、社内の理解を深める
企業にとっては負担が増える側面もありますが、適切な職務設計を行うことで多様な人材が活躍できる環境を整えるチャンスにもなります。
罰則リスクの増加
法定雇用率を達成できなかった企業には、障害者雇用納付金の負担が発生します。
特に、今回の引き下げにより「これまで納付義務がなかった企業」も対象となる可能性があるため、早めの対応が重要です。
- 未達成企業は1人あたり月額5万円の納付金が発生(企業規模によって異なる)
指導や勧告の対象となるリスクが高まり、企業の社会的評価にも影響を及ぼす可能性
罰則を回避するためには、早期の採用計画策定や社内環境の整備が不可欠です。厚生労働省や自治体の助成金制度を活用し、効率的に対応を進めることが求められます。
企業は「義務」としての対応だけでなく、多様な人材の活躍を促進する視点からも障害者雇用を前向きに捉えることが重要です。
5. 企業が取るべき対応策
障害者雇用義務が強化される中、企業は積極的な対応が求められます。
以下の対応策を講じることで、企業は法定雇用率の達成を目指すとともに、多様性を活かした職場環境を整えることができるでしょう。
1. 採用戦略の見直し
障害者採用を強化するためには、採用方法を多角的に見直すことが重要です。
- ハローワークや民間サービスの活用:障害者専門の求人サービスや相談窓口を活用し、障害者に特化した採用活動を行う。これにより、障害者の職業選択肢を広げるとともに、適切な人材を確保できます
- 障害者向けの説明会・インターンシップの実施:実際の業務内容や職場の雰囲気を知ってもらうため、障害者向けの求人説明会やインターンシップを開催することも有効です
2. 職場環境の整備
障害者が活躍できる職場環境を整えることは、企業の持続的な発展に貢献します。
- テレワークの導入:自宅での作業環境を整え、障害者が自分のペースで働ける環境を提供する。テレワークを活用することで、通勤に障害のある方でも働きやすくなります
- 補助機器の導入:音声認識ソフトや特殊なキーボード、座席の調整など、障害に合わせた補助機器を導入することで、業務効率を向上させるとともに、障害者が快適に働ける環境を整えます
3. 社内理解の促進
障害者雇用を成功させるためには、社内全体の理解と協力が欠かせません。
- 障害者雇用に関する研修の実施:全従業員を対象に障害者雇用に関する研修を行い、障害者とのコミュニケーション方法や、職場でのサポート方法を学ぶことが重要です
- マニュアル作成:障害者雇用に関するポリシーや業務手順、サポート体制を明文化したマニュアルを作成し、社員全員に周知することで、障害者と共に働くための基盤を築きます
これらの取り組みを実施することで、企業は障害者雇用の義務を果たすだけでなく、より健全で活力ある職場を実現することができます。
まとめ
以上、2026年4月から適応される障害者雇用除外率の引き下げについて解説しました。
除外率の引き下げにより、企業の障害者雇用の義務が増加し、特に製造業や運輸業など、これまで除外率が高かった業界では、より多くの障害者を雇用する必要が出てきます。
この引き下げに対応するため、企業は業務内容の見直しや職場環境の整備、従業員の意識改革を進める必要があります。
適切な対応を行わない場合には罰則が課せられるリスクが高いため、早期に対応することが求められます。
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