目次
1. 改正の趣旨
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律案が、第217国会(2025年1月24日~2025年6月22日)に提出され審議されています。
多様な労働者が活躍できる就業環境の整備を図るため、ハラスメント対策の強化、女性活躍推進法の有効期限の延長を含む女性活躍の推進、治療と仕事の両立支援の推進等の措置を講ずることを目的とし、以下の法律が改正されます。
- 労働施策総合推進法
- 女性活躍推進法
- 男女雇用機会均等法
この改正により、企業としてどのような対応が求められるのか、概要を確認しておきましょう。
2. 改正で企業に求められること
(1)ハラスメント対策の強化(公布の日から1年6か月以内に施行)
- カスタマーハラスメント防止のために、雇用管理上必要な措置をすること(義務)
- 求職者に対するセクシャルハラスメント防止のために、雇用管理上必要な措置をすること(義務)
(2)女性活躍の推進
時限立法である女性活躍推進法を10年延長し2036年3月31日までとする(公布の日に施行)
- 男女間賃金差異・女性管理職比率の情報公表を、常時雇用する労働者数101人以上の一般事業主及び特定事業主とする(義務/2026年4月1日施行)
- プラチナえるぼしの認定要件に、求職者等に対するセクシャルハラスメント防止にかかわる措置の内容を公表していることを追加する(公布の日から1年6か月以内に施行)
(3)治療と仕事の両立支援の推進(2026年4月1日施行)
職場における治療と就業の両立の促進に必要な措置をすること(努力義務)
3. カスタマーハラスメント対策の強化
雇用管理上の措置を義務化するにあたり、カスタマーハラスメントの定義として、以下の3点のいずれをも含むものと示されています。
(1)顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行うこと
- 「顧客」には、今後利用する可能性がある潜在的な顧客も含むと考えられる
- 「施設利用者」とは、施設を利用する者をいい、施設の具体例としては、駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設等が考えられる
- 「利害関係者」は、顧客、取引先、施設利用者等の例示している者に限らず、様々な者が行為者として想定されることを意図するものであり、法令上の利害関係だけではなく、施設の近隣住民等、事実上の利害関係がある者も含むと考えられる
(2)社会通念上相当な範囲を超えた言動であること
- 権利の濫用・逸脱に当たるようなものをいい、社会通念に照らし、当該顧客等の言動の内容が契約内容からして相当性を欠くもの、又は、手段・態様が相当でないものが考えられる
- 「社会通念上相当な範囲を超えた言動」の判断については、「言動の内容」及び「手段・態様」に着目し、総合的に判断することが適当であり、一方のみでも社会通念上相当な範囲を超える場合もあり得ることに留意が必要である
- 事業者又は労働者の側の不適切な対応が端緒となっている場合もあることにも留意する必要がある
- 「社会通念上相当な範囲を超えた言動」、また、性的な言動等が含まれ得る
(3)労働者の就業環境が害されること
- 労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどの、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを意味する
- 「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、「同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」を基準とすることが適当である
- 言動の頻度や継続性は考慮するが、強い身体的又は精神的苦痛を与える態様の言動の場合は、1回でも就業環境を害する場合があり得る
上記のほか、正当なクレームであれば、カスタマーハラスメントには当たらないことや、障害者差別解消法に基づく合理的な配慮の提供義務を順守する必要があることや、セクハラ防止指針に倣い、他の事業主から必要な協力を求められたことを理由として、その事業主との契約を解除する等の不利益な取り扱いをすることは望ましくないこと、他の事業主から協力を求められた場合、必要に応じて事実確認等を行うにあたり、自社で雇用する労働者に不利益取り扱いをしないことを労働者に周知し、実際にカスタマーハラスメントをしていた場合には、就業規則に基づき適正な措置を講ずることが望ましいこと等について、指針等に明記することとされました。
図1
出典:厚労省「カスタマーハラスメント対策リーフレット」(PDF)
4. 就活等セクシュアルハラスメント対策の強化
就活等セクシュアルハラスメントを防止するための対策として、事業主の措置として具体的な内容については、セクハラ防止指針の内容を参考とするほか、以下の例示を指針において明確化することとされました。
- いわゆるOB・OG訪問等の機会を含めその雇用する労働者が求職者と接触するあらゆる機会について、実情に応じて、面談等を行う際のルールをあらかじめ定めておくことや、求職者の相談に応じられる窓口を求職者に周知すること
- セクシュアルハラスメントが発生した場合には、被害者である求職者への配慮として、事案の内容や状況に応じて、被害者の心情に十分に配慮しつつ、行為者の謝罪を行うことや、相談対応等を行うことが考えられること
また、就職活動中の学生をはじめとする求職者に対するパワーハラスメントに類する行為等については、どこまでが相当な行為であるかという点についての社会的な共通認識が必ずしも十分に形成されていない現状に鑑み、パワーハラスメント防止指針等において記載の明確化等を図りつつ、周知を強化することを通じて、その防止に向けた取組を推進するとともに、社会的認識の深化を促していくことが適当であり、求職者に対する情報公表の促進のため、指針に基づき事業主が講じた内容を公表することが、セクハラ防止になることから、プラチナえるぼしの認定要件となります。
なお、今回の改正法案には含まれていませんが、以下についても確認しておきましょう。採用選考にあたっては、公正を期すことが求められ、家族や生活環境に関することなどといった、応募者の適性・能力とは関係のない事項で採否を決定しないため、そのような情報を収集することはふさわしくありません。さらに個人情報保護法・職業安定法等でも、社会的差別の原因となるおそれのある個人情報(本籍・出生地に関することや家族に関すること、思想・信条にかかわること等)などの収集は原則として認められません。
詳細は、厚労省のサイトで確認しておきましょう。
厚労省:公正な採用選考の基本
https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/saiyo1.htm
また、採用活動における身元確認の重要性とリスク管理については、以下の記事もあわせてご参照ください。
まとめ
法改正により、ハラスメント防止強化については、これまでのパワハラ、セクハラ、マタハラ、育児・介護に関するハラスメントに加え、カスハラ、就活等セクハラが加わることとなります。なお、パワハラについては、「自爆営業」(事業主がその立場を利用して労働者に不要な自社の商品の購入をさせたり、営業成績達成のために自腹で購入させたりすること)を指針に明記することとされました。
企業が講ずべき措置としては、ハラスメントを許さない方針を明確にし、従業員への周知・教育研修、不利益扱いの禁止、相談窓口の設置等については、これまでと変わりません。現在の措置にカスハラ、就活等セクハラを加えていくことになります。
ハラスメントは、会社の就業環境を害し、従業員の心身の健康にも大きな影響を与えるものです。法改正を契機に自社の対策や実情を再検討する機会にしていきたいものです。
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