2026年4月から施行される労働安全衛生法の改正では、化学物質の管理に関する規定が大幅に見直されます。
従来は一部の特定化学物質を中心に管理が求められていましたが、今後は「すべての化学物質をリスクに応じて管理する」仕組みへと変わります。
特に、SDS(安全データシート)の交付義務拡大と、個人ばく露測定(2026年10月1日施行)は、多くの事業場に影響を及ぼす改正点です。
この記事では、改正の背景と具体的な変更点、そして事業者が今から準備すべき実務対応について解説します。
1. 労働安全衛生法の改正概要
2025年5月、労働安全衛生法の改正が公布され、化学物質に関する安全対策がさらに強化されました。
これまで、化学物質管理の仕組みは政令や省令といった個別のルール改定を通じて段階的に見直されてきましたが、今回はそれらを包括的に整理し、法律そのものが改正される形となりました。
背景にあるのは、2022年以降に進められてきた「自律的な化学物質管理」への移行です。
従来のように国が細かく管理基準を定めるのではなく、企業自らが取り扱う化学物質の危険性・有害性を把握し、リスクに応じた管理措置を講じることが求められるようになりました。
今回の改正(正式名称「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」)では、この方針を法体系に明確に位置づけ、SDS(安全データシート)の提供義務拡大や個人ばく露測定の義務化など、具体的な運用強化が盛り込まれています。
化学物質対策にとどまらず、作業環境全体の安全性を高める方向へと制度が進化しているのが今回の特徴です。
2. 改正背景と目的
今回の改正の背景には、化学物質による健康障害の未然防止があります。
これまでの制度では、「特定化学物質」など、国が定めた一部の物質に限って規制が行われていました。
しかし、実際には新たな有害性が判明する化学物質が増えており、法令で指定されていない物質による事故も相次いでいます。
こうした状況を踏まえ、厚生労働省は「企業自らがリスクを把握・管理する仕組み」への転換を進めています。
つまり、国が指定した物質だけでなく、事業者自身が取り扱う化学物質のリスクを特定し、適切な管理を行う責任を持つという考え方です。
この方針に基づき、SDS(安全データシート)の整備やリスクアセスメントの実施が、より多くの事業者に義務付けられるようになりました。
3. 主な改正内容
(1)SDSの交付・情報伝達の義務化範囲が拡大
これまでSDS(安全データシート)の交付が義務付けられていたのは、労働安全衛生法で指定された約3,000物質に限られていましたが、今後は危険性・有害性が確認されたすべての化学物質が対象となります。
製造・譲渡・提供を行う事業者は、SDSの内容を最新化し、適切に相手方へ伝達する義務があります。
(2)個人ばく露測定の導入
作業環境測定法の改正により、一定の有害物質を扱う作業場では、個人ばく露測定の導入が進められます。
従来は作業場全体の平均濃度を測定していましたが、改正後は作業者ごとのばく露量を把握することで、より精度の高い健康管理が可能になります。
なお、個人ばく露測定の義務化は 2026年10月1日(令和8年10月1日)施行です。
(3)化学物質管理者の選任義務
リスクアセスメントの結果に基づき、必要な措置を講じるために、事業場ごとに「化学物質管理者」を選任することが義務付けられます。
管理者は化学物質の取扱状況を把握し、安全教育や保護具の管理などを統括します。
(4)違反に対する罰則の強化
改正後は、SDS未交付やリスクアセスメントの未実施などに対し、報告命令や罰則の適用が強化されます。
違反が確認された場合、事業者や管理者が行政処分を受ける可能性もあるため、早めの対応が求められます。
| 改正項目 | 改正前 | 改正後(2026年4月施行) |
| SDSの交付義務 | 約3,000物質のみ対象 | 危険性・有害性が確認されたすべての化学物質に拡大(2026年4月) |
| 情報伝達の方法 | 紙面・一部電子媒体 | 電子データも正式に認められ、最新情報の提供を義務化 |
| リスクアセスメント | 一部物質のみ実施義務 | 全ての有害化学物質を対象に義務化(2026年4月) |
| 個人ばく露測定 | 作業場の平均濃度を測定 | 作業者ごとのばく露量を個別に測定・記録(2026年10月1日施行) |
| 罰則・行政処分 | 指導中心 | SDS未交付や未測定に対し報告命令・罰則を適用 |
SDS/ラベル表示・通知義務
今回の改正では、化学物質の譲渡・提供時の情報通知制度が重要ポイントです。(図1)
(図1)

出典:厚生労働省_労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要.pdf
- 譲渡・提供者側の義務
- 化学物質の名称や人体影響をラベル表示
- SDSを交付し、成分や含有量などの危険有害性情報を通知
- 受領側(ユーザー企業)の義務
- 情報を基にリスクアセスメントを実施
- 評価結果に応じて、適切なばく露低減措置(保護具の使用など)を講じる
この制度により、単なるSDSの受け渡しにとどまらず、作業環境での安全確保まで企業責任が明確化されます。営業秘密情報や医師による開示要求への対応も法的に明確化されており、情報管理と安全管理が一体化しています。
通知義務違反への罰則と企業の責任
今回の改正で特に注目すべき点の一つが、罰則の明確化です。
これまで、SDS(安全データシート)の交付や情報通知義務の違反に対しては、主に指導が中心でした。
しかし、2026年4月の施行からは、未交付や通知義務違反に対して報告命令や罰則が適用されることになります。
企業は、単に書類を整備するだけではなく、現場での運用を含めた確実な体制づくりが求められます。具体的には以下の点が重要です。
- 譲渡・提供者はラベル表示やSDS交付義務を厳守する
- ユーザー企業は受け取った情報を基にリスクアセスメントを実施し、必要な保護措置を確実に講じる
- 通知事項に変更があった場合、再通知を怠らない
また、営業秘密情報を含む化学物質の成分名についても、通知義務を遵守しつつ、医師の診断や治療に必要な場合には適切に開示する対応が求められます。
これにより、企業の安全管理責任と法的責任が一層明確化されます。
4. 企業の運用体制・対応ポイント
① 化学物質のリスト化とリスク把握
まずは、自社で使用しているすべての化学物質を洗い出し、SDSの有無や危険性・有害性の情報を整理します。リスト化することで、法令対象の把握やリスクアセスメントの実施対象が明確になります。
② 管理体制の整備
化学物質管理者の選任に加え、リスク評価や教育訓練の責任体制を社内で明確にしておくことが重要です。製造・保管・廃棄といった各段階での管理ルールを見直し、継続的に改善していく体制を構築しましょう。
③ 教育・周知の徹底
現場担当者だけでなく、購買や総務など、化学物質の取り扱いに関わる全従業員に向けて、改正内容やSDSの読み方などを共有します。理解不足による誤った取扱いや、情報伝達の漏れを防ぐことが重要です。
まとめ
2026年4月の改正施行により、企業の化学物質管理責任は大幅に拡張されます。
従来の「指定物質のみ管理」ではなく、自社で扱うすべての化学物質を自律的に管理する体制が求められます。
また、個人ばく露測定は 2026年10月1日から義務化されるため、該当事業場は前倒しで準備を進めることが重要です。
SDSやリスクアセスメントを軸に情報管理を徹底し、従業員の安全を守ると同時に、社会的信頼につながる職場環境づくりを進めることが重要です。
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