労災保険の様式6号は、業務が原因となる負傷または病気により療養補償給付を受けている労働者が、労災指定病院等を変更する際に必要な書類です。変更後の指定病院に提出することで、変更前と変わらず無料で治療を受けることができます。
様式6号をはじめ労災の各種書類は、会社の労務担当者が作成することも多いため、具体的な記入の仕方などを覚えておいて損はありません。今回は、労災の様式6号の記入例や他の様式との違い、提出方法について解説します。
目次
1. 労災の様式6号に関する基礎知識
まずは、労災の様式6号に関する基礎知識、他の様式との違いなどを確認していきましょう。
労災保険については以下の記事もあわせてご参照ください。
労災の様式6号とは?
労災の様式6号とは、業務が原因のケガや病気で治療中の労働者が、転居などの理由で、指定医療機関(労災病院または労災指定医療機関・薬局)を変更するときに提出する書類です。
労災の様式6号と他の様式の違い
ここからは、様式6号と他の様式との違いを解説します。
なお、労災保険では、業務中だけでなく通勤中のケガや病気も補償しています。そのため、同じ目的の給付でも「業務災害用」、「通勤災害用」と様式が別になっているケースがあり、注意が必要です。
①「様式16号の4」との違い
様式6号と「様式16号の4」のいずれも目的はどちらも指定病院の変更ですが、様式6号が業務災害用、様式16号の4は通勤災害用の様式となっています。
②「様式5号」および「様式16号の3」との違い
「様式5号」と「様式16号の3」は、労災の対象になるケガを負い、初めて指定医療機関で診療を受けたときに提出する書類です。様式5号は業務災害用、様式16号の3は通勤災害用となります。
つまり、様式6号との違いは、病院にかかるタイミングによって異なると理解してください。初めて病院にかかるときの書類が「様式5号(もしくは様式16号の3)」であり、すでにかかっている病院を変更するときの書類が、「様式6号(もしくは様式16号の4)」となります。
ここで注意が必要なのは、労災の指定を受けていない医療機関から指定医療機関に変更する際の書類は、様式6号(もしくは様式16号の4)ではなく、様式5号(もしくは様式16号の3)となる点です。このように、多少イレギュラーなケースでは、事前に労働基準監督署に確認しておきましょう。
③「様式7号(1)」および「様式16号の5(1)」との違い
「様式7号(1)」および「様式16号の5(1)」は、立て替え払いをした治療費用の請求書です。なお、様式7号(1)は業務災害用、様式16号の5(1)は通勤災害用です。
国内の医療機関がすべて労災指定を受けているわけではないので、緊急の場合など、労災指定ではない医療機関で治療を受けることもありえます。通常、労災の場合、治療費の本人負担はゼロですが、非指定の医療機関の場合は、一度、治療費の全額を立て替えて支払うこととなり、後日、領収書等を添付して労働基準監督署に費用を請求します。
ところで、各様式名にある(1)などの数字は何を意味するのでしょうか。じつは、療養の費用の請求書には、治療を受けた医療機関別に5種類の様式があります。表1をご参照ください。
表1
業務災害 | 通勤災害 | 見分け方 | |
---|---|---|---|
(1)医療機関 | 7号(1) | 16号の5(1) | 用紙の右上に丸囲みのマークがない |
(2)薬局 | 7号(2) | 16号の5(2) | 用紙の右上に「薬」を丸囲みしたマークがある |
(3)柔道整復師 ※骨折、脱臼、捻挫、打撲などの治療をする国家資格者 |
7号(3) | 16号の5(3) | 用紙の右上に「柔」を丸囲みしたマークがある |
(4)はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師 | 7号(4) | 16号の5(4) | 用紙の右上に「はり・きゅう」を丸囲みしたマークがある |
(5)訪問看護事業者 | 7号(5) | 16号の5(5) | 用紙の右上に「訪看」を丸囲みしたマークがある |
また、業務災害と通勤災害の様式の見分け方は以下の通りです。
業務災害:用紙の左上に以下の記載がある
業務災害用
複数業務要因災害用
通勤災害:用紙の左上に以下の記載がある
通勤災害用
上記を参考にして、書類作成時には様式を間違えないように十分注意しましょう。
労災の様式6号の入手方法
様式6号は全国の労働基準監督署で入手できますが、厚生労働省のWebサイトからもダウンロードできます。
出典:厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)」
中にはWordや入力可能なPDF形式になっているデータもあるため、上手に活用して事務負担を軽減しましょう。
2. 労災の様式6号の記入例、記載項目の書き方
出典:厚生労働省「療養(補償)等給付の請求手続」パンフレット
まずは、記入例を確認してください。記載項目が多いので記載漏れには注意が必要です。
また、被災者に聞き取りが必要な項目など、予想以上に手間がかかる可能性がありますので、時間に余裕を持って取り組みましょう。
労災の様式6号の記載項目
次に、項目ごとの記載事項を解説します。
- 届出人の住所、氏名
被災労働者の住所と氏名を記入します。 - 労働保険番号
労働保険番号は労災保険加入時に、労働局から割り振られた14桁の番号です。わからない場合は、労働保険料の年度更新の申告書(「労働保険概算保険料申告書」)の控えに記載されているので、確認しましょう。 - 年金証書の番号
被災労働者が傷病補償年金を受給している場合は、年金証書の番号を記入します。年金証書を紛失した場合は、労災年金の支給決定を受けた労働基準監督署で年金証書の再発行が可能です。詳しくは最寄りの労働基準監督署に問い合わせてみてください。 - 労働者の氏名、生年月日、住所、職種
被災労働者の氏名、生年月日、住所、職種を記入します。職種は、作業内容がわかるように、できるだけ具体的に記入しましょう。 - 負傷又は発病年月日
ケガの原因となる事故の発生日と時刻、または発病した日をできる限り正確に記入します。 - 災害の原因及び発生状況
被災労働者に確認のうえ、被災の原因や発生当時の状況を記入します。ポイントは「可能な限り具体的に」です。たとえば、荷物を運んでいた時のケガであれば、荷物の種類や重量なども詳細に記入しましょう。 - 事業の名称、事業場の所在地、事業主の氏名
事業主証明欄には、会社名、会社の住所・電話番号、事業主(代表取締役など)の氏名を記入します。なお、支店長などが事業主の代理人として選任されているときは、事業主の氏名欄に記入するのは支店長の氏名になります。 - 指定病院等の変更
変更前の病院の名称・所在地、および変更後の病院の名称・所在地を記入します。さらに、変更の理由もわかりやすく書いてください。 - 傷病補償年金または複数事業労働者傷病年金の支給を受けることとなった後に療養の給付を受けようとする指定病院等
傷病補償年金・複数事業労働者傷病年金とは、療養開始後1年6か月たっても傷病が治癒(症状が固定した状態)しない場合に、障害の程度が傷病等級に該当した段階で受給できる労災年金のことです。両年金の受給対象ではない場合は、記入する必要はありません。 - 傷病名
治療中の傷病名を正確に記入します。 - (裏面)その他就業先の有無
副業や兼業をしている場合など、複数の会社で働いている場合は、「有」に〇印をつけ、就業事業場数を記入します。さらに、労災の「特別加入」(本来労災の対象にならない自営業者などが労災保険に加入できる制度)をしている場合は、特別加入団体等の名称、加入年月日を記載します。
こちらは、労災保険法の改正により、令和2年(2020年)9月1日から、複数の会社で働いている労働者(複数事業労働者)向けに給付制度が整備されたことに伴い追加された項目です。
なお、政府が進める規制改革に伴い、令和2年(2020年)12月25日から、労災保険関係の請求書等について押印が不要となっています。様式6号についても、労働者、事業主、どちらも押印は必要ありません。
3. 労災の様式6号の提出方法
次に、様式6号の提出方法や、提出時に注意するポイントについて確認しましょう。
労災の様式6号の提出先は?
様式6号の提出先は、変更後の指定医療機関です。変更前の指定医療機関への手続きは不要です。
労災の様式6号は誰が記入して提出する?
様式6号は、被災労働者が記入・提出することが原則ですが、記載項目に事業主証明もあるため、実際の運用では、会社の労務担当者が記入し、労働者が各自で病院に提出するケースが多くあります。
労災の様式6号の提出期限はいつまで?
法律上、請求権の時効が規定されている関係で、一般的に、公的な書類の提出期限は厳密に決められているものです。様式6号の提出期限は、費用を支出(支払い)した翌日から2年となり、治療を受けた医療機関によって異なります。
もし、労災保険指定以外の医療機関で治療を受けた場合は、前述の通り、提出期限は支払いの翌日から2年となります。
一方、労災保険指定医療機関で治療を受けた場合は、基本的に医療費の立て替え支払いがないため提出期限もありません。しかし、失念することのないよう、なるべく速やかに提出することが望ましいといえます。
様式6号を含む労災の書類提出フローチャート
どの書類を提出すべきか迷ったときに、労務担当者が注意すべきポイントは「いつケガをしたか?」「労災指定病院を受診したか?」の2つです。
①「いつケガをしたか?」
従業員から「ケガをした」と連絡が入ったら、まず確認すべきは「いつケガをしたか」です。労災の手続きは、通勤災害と業務災害の2パターンあり、書類もそれぞれ別になります。きちんと聞き取りをせず、違う書類を提出してしまうと、書類の再提出が必要となり、二度手間、三度手間にもなりかねません。
さらに、被災した従業員は、ただでさえ不安な状態であることから、手続きが遅れてしまうと、会社への不信感につながるおそれもあります。トラブルを避けるためにも、しっかり確認しましょう。
②「労災指定病院を受診したか?」
ケガをした従業員には、速やかに病院で受診してもらいましょう。従業員には「病院に労災である旨を申告して、健康保険証を提示しない」ことを必ず伝えましょう。その後の申請がスムーズに進みます。
病院を受診して従業員が少し落ち着いた段階で、「受診した病院が労災指定病院かどうか」を確認します。フローチャートにもあるように、労災指定病院と指定病院ではない場合では、手続きの仕方が異なります。
労災指定病院で受診した場合、業務災害と通勤災害の区別に従い、該当書類を病院・薬局に提出すると、書類は病院から労働基準監督署に渡ります。
一方、非指定病院で受診した場合では、費用の無料対応ができず、いったん立て替え払いをするケースが多くなります。そのため、立て替えた費用の請求手続きを行います。領収書等を添付して申請書を労働基準監督署に提出すれば、立て替え払いした費用は直接本人に支払われます。
提出先の労働基準監督署は、被災労働者の住所ではなく、会社の住所地を管轄する労働基準監督署です。間違えやすいポイントのため、十分注意しましょう。
ちなみに、厚生労働省の「労災保険指定医療機関検索」で調べれば、医療機関の名称や所在地、診療科目などから、最寄りの労災保険指定医療機関を検索することができます。
被災労働者から、転居先などで最寄りの労災指定病院がどこか聞かれた場合は、こちらで調べることも可能です。
4. 労災の様式6号は提出方法の事前確認で、手間を省いて作成しよう
労災の様式6号は、業務が原因で療養中の労働者が、転居などのために転医する際に必要な書類です。変更後の医療機関に提出することで、労働者は変更前と変わりなく、無料で治療を受けることができるようになります。
作成にムダな手間と時間を省き速やかに提出するポイントは、提出方法の事前確認です。また、行政の申請手続きには電子申請の普及が進んでいることもあり、労災の申請も電子申請できれば、労務担当者の事務負担はさらに軽減するでしょう。
しかし、実際には労災の給付について電子申請できるものはほとんどなく、様式6号についても基本的に紙での申請となります。
労災の電子申請が進んでいない主な理由として、以下の2つが挙られます。
- 労災指定病院など医療機関では、電子申請対応をしているところがほとんどない。
- とくに休業補償や療養の費用の請求など、医師の証明や領収書等の原本が必要な申請の場合、電子申請しても、あとから紙の書類を郵送する作業が発生するため、結局、紙でまとめて申請する場合と変わらなくなる。
さらに、令和7年(2025年)1月1日から、以下の手続きが電子申請の義務化対象となります。
① 労働者死傷病報告
② 定期健康診断結果報告書
③ じん肺健康管理実施状況報告
④ 総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告
⑤ 有害な業務に係る歯科健康診断結果報告書
⑥ 有機溶剤等健康診断結果報告書
⑦ 心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書(ストレスチェック結果報告)
このように、今後、加速度的に電子申請での義務化対応となる手続きが増えていきますので、今のうちに電子申請ができる環境を整えておくと安心です。
Charlotte 36plusでは令和7年1月1日から義務化になるすべての手続きに対応しており、電子申請可能です。ぜひ一度チェックしてみてください。
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