2024年10月より、社会保険の適用範囲が拡大されました。特定適用事業所の定義が「従業員101人以上」から「従業員51人以上」に変更されたため、従業員数51~100人の企業で働く短時間労働者が影響を受けることになりました。
短時間労働者を雇用している場合は、きちんと社会保険へ加入させましょう。
今回は、特定適用事業所に該当する従業員の数え方や、社会保険へ加入する条件などを解説します。事業所が行うべき準備も解説するので、参考にしてみてください。
目次
1. 【2024年10月施行】社会保険の適用拡大の基礎知識
2024年10月より年金制度が改正され、社会保険の適用範囲が拡大されました。ここではその改正内容について概要をご説明します。
そもそも社会保険とは?
社会保険とは「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」の総称です(広義では、雇用保険や労災保険を含みます)。
健康保険 | 被保険者やその家族が病気やケガをした際に、自己負担を抑えて医療サービスを受けるための制度 | 厚生年金保険 | 従業員の老後や障害、死亡に備える年金制度 |
---|---|---|
介護保険 | 介護が必要な高齢者(原則65歳以上)が、自己負担を抑えてサービスを受けるための制度 |
厚生年金保険料 | 増える年金額(目安) | |
---|---|---|
20年間加入 | 月額8,100円 | 月額8,900円(年額 106,800円)× 終身 |
10年間加入 | 月額8,100円 | 月額4,400円(年額 52,800円)× 終身 |
1年間加入 | 月額8,100円 | 月額440円(年額 5,200円)× 終身 |
健康保険による補償が受けられる
健康保険に加入することにより、受けられる補償の範囲が広くなります。
たとえば、病気やけがで仕事を休まなければならない場合は傷病手当金が、出産により仕事を休まなければならない場合は出産手当金が支給されます。
受給できる手当金は賃金の3分の2相当です。休んで収入を得られない状況において、生活を支える給付となります。
キャリアアップを目指しやすくなる
社会保険に加入し、年収の壁を気にせずに働けるようになれば、就業時間が増えます。職場にとって長い就業時間を確保できる従業員はありがたい存在のため、両者がよければ短時間労働者からフルタイム労働者にキャリアアップする可能性が生まれるでしょう。
さらに実績と信頼を重ねれば、正社員登用にいたる可能性もあります。
従業員のデメリット
毎月保険料が控除され、手取り額が減る
社会保険料の発生に伴って控除額が増え、手取り収入が減少する点は従業員のデメリットです。
月収88,000円の方であれば月額約8,100円の社会保険料が発生し、この分だけ手取り収入が減少します。
事業所のメリット
労働生産性の向上につながる
これまで就業調整をしていた短時間労働者に、より長く働いてもらうことで、労働生産性が向上するメリットが期待できます。
経験豊富な短時間労働者が労働時間を増やしてくれれば、貴重な労働力を確保でき、事業活動が円滑になるでしょう。
また、社会保険の加入により、受けられる社会保障が手厚くなります。これにより従業員が安定した生活を送ることができ、仕事に専念できる効果も期待できるでしょう。
離職防止につながる
事業所として適切に社会保険の加入手続きを行い、キャリアアップの制度を整備すれば、従業員の離職防止につながります。「安心して働ける」「長くこの職場で働きたい」と感じてもらえれば、従業員が転職する必要性が乏しくなるためです。
短時間労働者といえども、貴重な労働力であることに変わりありません。雇用形態に関係なく、働きやすさを感じてもらえれば、離職防止と職場定着の促進を実現できるでしょう。
社会保険完備となり、求人の魅力が高まる
求人広告で「社保完備」という点をアピールできれば、求人の魅力が高まります。「福利厚生がきちんとしている会社」「安心して働ける会社」というイメージを求職者に与えられれば、優秀な人材を引き付けやすくなるでしょう。
扶養を気にせず労働時間を延長する従業員が出てくる
従業員が自ら社会保険に加入すると、親族の扶養から外れます。これまで扶養に入るために就業調整をしていた従業員がいた場合、今後は扶養条件を気にする必要がなくなります。
つまり、就業調整する必要がなくなり、労働時間を延長する従業員が出てくると考えられるでしょう。
人材確保で苦労している事業所にとって、既存の従業員が労働時間を延ばしてくれれば、教育コストがかからないうえに安定的に労働力を確保できるメリットが期待できます。
国の補助金を優先的に受け取りやすくなる
従業員を適切に社会保険に加入することで、中小企業生産性革命推進事業(ものづくり補助金・小規模事業者持続化補助金・IT導入補助金など)の審査で優遇を受けられます。
応募要件の緩和や審査項目による加点などが行われるため、優先的に補助金を受け取れる可能性が高まるでしょう。
事業所のデメリット
従業員1人あたりの雇用コストが増える
社会保険料は労使折半であるため、社会保険に加入する従業員が増えるほど事業所の負担も増えます。
月収88,000円の従業員一人あたり、事業所負担分は月額約8,100円、10人いれば約81,000円です。年間で100万円近い社会保険料が発生するため、資金繰りに影響が出るかもしれません。
4. 社会保険の適用拡大で必要になる事業所の準備
新しく社会保険に加入する短時間労働者がいる場合、事業所はどのような準備が必要なのでしょうか。
以下で、事業者が行うべき準備を解説します。
新規加入対象者の把握
短時間労働者の所定労働時間や賃金を把握し、新規加入対象者を把握しましょう。賃金要件を確認する際には、所定内賃金に含む手当と含まない手当があるため、間違えないように注意が必要です。
適用拡大後の社会保険料の算出
加入対象となる短時間労働者数を把握したら、労使の双方にどの程度の社会保険料が発生するのかを確認しましょう。
従業員負担分は手取り収入の減少、事業主負担分は福利厚生費の増大につながります。
新規加入対象者に制度変更の周知
新しく社会保険の加入対象者となる短時間労働者に対して、社会保険の適用範囲が拡大したことと、今後加入する必要があることを説明します。
社会保険に加入するメリットとデメリットを丁寧に解説し、要件を満たす限りは社会保険への加入は義務であることを伝えましょう。
新規加入対象者本人の意向確認
短時間労働者の中には、社会保険に加入することに抵抗がある人がいるかもしれません。意向を確認し、もし社会保険の加入を望まない人がいる場合、所定内賃金を抑えたり週の所定労働時間を20時間未満に抑えたりといった対策が必要です。
被保険者資格取得届の届出
社会保険に加入する短時間労働者に関しては、「被保険者資格取得届」を日本年金機構へ提出する必要があります。窓口や郵送、電子申請などで提出しましょう。
5. 社会保険の適用拡大に関するよくある質問
最後に、社会保険の適用拡大に関するよくある質問を解説します。
従業員が50人以下の会社は社会保険に加入しなくても良い?
従業員が50人以下の会社では、短時間労働者に関しては社会保険に加入する必要はありません。
ただし、フルタイム勤務の従業員や週の所定労働時間・1カ月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上である従業員は、社会保険に加入する必要があります。
新規加入対象者から「加入したくない」との意向を受けたらどう対応すべき?
「社会保険に加入したくない」という短時間労働者に関しては、要件に該当しないようにする対策が必要となります。
たとえば、所定内賃金を8.8万円未満に抑えたり、週の所定労働時間を20時間未満に抑えたりするという方法が考えられます。
扶養内となる年収はいくら?
税金の扶養内(配偶者控除を受ける)になるための年収基準は103万円です。一方で、社会保険の扶養内になるための年収基準は130万円です。
6. 2024年10月の社会保険適用対象拡大への対応を忘れずに
2024年10月より社会保険の適用範囲が拡大されたことに伴って、一部の短時間労働者は新たに社会保険へ加入することになりました。
事業所としては、週の所定労働時間や賃金の支払い状況などを確認して、加入対象者を確認したり、加入対象者となる従業員への説明をしたりする必要があります。
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Charlotte編集部
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デジタル庁 e-Gov最終確認試験合格
デジタル庁の最終確認試験は、民間事業者が開発したソフトウェアを使用してe-Gov電子申請サービスが正常動作確認することを目的としております。民間事業者が開発したソフトウェアの正常動作の確認を目的とするものではありません。
「Charlotte」の開発会社である株式会社ユー・エス・イーは社会保険システム連絡協議会の幹事会社です。
「社会保険システム連絡協議会」とは、総務省行政管理局及び厚生労働省等と、社会保険・労働保険関係手続きの電子申請が可能なソフトウェアを開発・販売・サポートする社会保険システム業界との窓口として、相互の事務連絡、情報交換及び協議等の円滑化を図り、社会保険行政の円滑な執行に資することを目的とした団体です。
「Charlotte」の開発会社である株式会社ユー・エス・イーは税務システム連絡協議会の加盟会社です。
「税務システム連絡協議会」は、税務・会計に関するシステム・ソフトウェアに携わる企業を対象として作られた、税務行政の効率化・省力化とともに納税者の利便性の向上を図り、税務行政のICT化に寄与し、適正な申告納税制度の確立に努めることを目的とした集まりです。1994年に設立され、2022年3月末時点において、税務及び財務関連システムを開発・販売・サポートとする企業33社が加盟しています。
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